小さな告白 ページ5
「そう、ここにゼロを代入すれば、切片がわかるだろう？」
「なるほど……」
私は頭が悪い。
特に数学がひどすぎて、目も当てられないくらいの点数を定期テストで取りまくっている。
だからいつもこうして、成績優秀な焦凍にぃに勉強を教えてもらっているのだ。
「それでこの前の式に当てはめれば答えが出る。やってみろ」
「う、うん……」
シャーペンでトントンと示された式に意識を向ける。
でも……
全然集中できないよ……
空気越しに伝わってくる、すぐ隣にいる焦凍にぃの体温が、嫌に熱く感じる。
今、焦凍にぃが息をしている、その音さえも私には伝わってくる。
ダメだよ、私。
今年、焦凍にぃは受験生なのに。
鍛錬もあって忙しい中、こうして私に教えてくれているのに。
甘えたい、なんて。
心の奥底から湧き出てくる欲望を我慢しながら、私は必死に目の前の数式に集中する。
心臓もバクバクして頭もあまり回らない中で解いた数式は、焦凍にぃのが教えてくれたおかげで正解だった。
赤ペンで丸をつける。
すると、またいつものように、焦凍にぃの大きな手が私の頭を撫でてくれた。
「できたな、すごいぞ。……課題はもうこれで終わったってことになるのか？」
「う、うん……！ 焦凍にぃ、すごい……ありがとう。
でもごめんなさい、受験で忙しいのに……」
ワサワサと私の髪を撫でる感覚が、恥ずかしくも嬉しい。
うわずった声でお礼とほんの気持ちのごめんなさいを言えば、焦凍にぃは優しく微笑んでくれた。
「いや、数学は人に教えることでもっとできるようになるからな。むしろいい機会だ」
同じ家に住んで、同じ洗剤で服を洗っているはずなのに、どうしてだろう、焦凍にぃからは私とは違う何か別の匂いがする。
嫌な匂い、いい匂いとかそういんじゃなくて……なんか、そばにいるだけでわかって、幸せなような、恥ずかしいような気持ちになる、匂い。
「ねえお兄ちゃん」
「なんだ」
「……ぎゅって、して」
あーあ、これ、完全にブラコンじゃん。
そんなことを思いながらもお願いしてみれば、焦凍にぃは私のことを優しく包んでくれた。
さっきよりも強く、執拗に私の鼻を掠める焦凍にぃの匂い。
私は焦凍にぃに声がバレないように、顔を強く焦凍にぃの胸に押し当てて小さな声で呟いた。
「焦凍にぃ……好き」
本当はダメなのにね。
あなたの背中を追い求めている→←幸せだったら、別にいいんじゃない
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作者名：emiria | 作成日時：2021年6月12日 17時
