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妹の華奢な手首を掴み、歩く。歩く。
「しょ、焦凍にぃ……？ どうしたの、こんな夜に」
背後から妹の不安げに揺れる声が追いかけてくるが、俺はそれを無視して歩き続けた。
そして、名前も知らないある大きな川のそばに着いた後、俺は妹と向き合った。
日はすっかり暮れ、道路沿いの電灯だけが唯一の光源だ。
暗がりの中にある妹の顔が、赤く染まっているのに俺はわざと気付かないふりをした。
「俺は今から、死のうと思う」
もう終わりだ。
ここまでしても、俺は炎の"個性"から逃れることができなかった。
罪を重ね、妹を犠牲にしても。
俺が炎の"個性"を譲渡したと知った親父の、俺に向けられるあの視線。
俺は勘当をも覚悟をしたが、親父は俺を静かに見つめるだけだった。
俺にとって、その視線はとても痛く辛いものだった。
何よりも耐え難いものだった。
あんなにも憎み妹に明け渡した"個性"が、ほんの少しでもまた欲しくなった。
親父は俺に視線をあまり向けなくなった。
その代わり、妹に向けるようになった。
俺は察した。
俺は、この"個性"からも父親からも、逃れられないのだと。
そのことを思うと、どんどん希死念慮が溢れて止まない。
「俺が死んだら親父に伝えてくれ。俺は、ただ逃げたかっただけだと」
そう言い残し、俺が川へと進んだ時。
「待って！」
妹に腕を掴まれ、引き戻された。
「なんだ」
「私も、私も一緒にいく」
「何を……」
「好きだから。私、焦凍にぃのことが、世界一好きなの」
妹の右手がボウッと炎を纏う。
俺には今、妹が死を体現した人外の何かに見えた。
衝動的に妹を抱きしめる。
妹は俺に両腕を絡める。もちろん、右腕も。
背中が炎に焦がされていく感覚がするが、俺は一層、妹を抱きしめる力を強める。
周りに人はいない。元々ここは人気のない場所だ。
炎は静かに俺たちを夕闇から浮かび上がらせ、包んでいった。
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作者名：emiria | 作成日時：2021年6月12日 17時
