三話 ページ3
「それは公の場では言わないようにね」
「あれ、怒らないんですね」
こちらの反応に対して彼女は少し意外そうな顔をする。
「怒るって?」
「ほら、私はあの先生が死んだの喜んじゃってるんですけど」
「ああ、うん。僕以外の人だったら『そんなことを言ってはいけない』とかなんとか言うんだろうけどね。誰かを嫌わない人間なんていないんだし、少なくとも君がそこまで言うほど嫌な思いをしてたってことだ。だからあまり頭ごなしには否定出来ないんだよ」
「そうですか」
「だってほら、僕のこともさ、『事情聴取なんて面倒くせえものにいつまで付き合わせるんだクソ無能刑事』とか思ってても仕方ないわけで」
「いや流石にそんなことは思ってません」
「よかった」
背後で扉が開き、入室してきた部下が耳打ちする。『今日のところは一旦帰して』か。それくらい普通に言えばいいのに。
「じゃあ、今日はもう帰っていいよ。危ないから送る」
「ありがとうございます」
「君の学校って寮制、だよね?」
「基本はそうです。アパートに住んでる人も居ますが」
だとすればよほど警備が甘くない限りは犯人が学校に侵入する可能性は低いといえる。簡単に言ってしまえば『学校の外に出ない限りは安全』なのかもしれない。
「最後に一つだけ、彼は目玉のこと以外に何か言ってなかったか?」
「うーん……あ、えっと確か『私は神に選ばれた人間だ』みたいなことを。『信者は皆、片目がない。私への信仰の証として捧げたからだ』と」
「イカレてるな」
しかもカルト宗教の教祖様とは恐れいった。神がどうのとか言っているがまともな人間からしたら奴こそ天罰がくだる不届き者だ。
「あ、そういえばこれを見せるように頼まれました」
渡された物は住所の書かれていない名刺のようなものだった。中央にホラー漫画を彷彿とさせる赤い古印体の字で『弥勒 鬽那未』と書かれている。
「『ミロク ミナミ』と名乗ってました。」
「うん、ありがとう教えてくれて。咄嗟に読み方が出てこなかった」
面倒くせえ偽名だな。ていうか絶対遊んでるだろこの字。それとも格好つけか。
「……と、ごめんね長くなって。もしかしたらまた呼び出しちゃうかもしれないけど」
「大丈夫ですよ」
部屋を出てから出口へ着くまでに互いに無言だったが外のパトカーが見えてきたので切り出した。
「君って家から通ってる?」
「学校の寮で生活してます」
「そうか。それならまだ安全だな」
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作者名:田無苑珠 | 作成日時:2017年4月21日 20時