事実を言って何が悪い ページ10
もう外には天使のいる気配がしない中、いそいそと残り80枚の反省文を綴る。疲れた、背をちょっと伸ばすとぺきぺき鳴った。
「まともに文章が書けない天使だったのか？先日の報告書はまぐれ、と」
気付くと、わたしの座るイスの真横に大きな天使が座っていた。その天使はわたしの反省文を読んで、退屈そうに頬杖をついて大否定をしてきた。アダム様、それはあんまりだよ。
「事実を言って何が悪い、修理班が壁の修理をとうの昔に終えたぞ」
呆れた声で、正論パンチな返答をされる。
何でも良いから書いてやる。ネタ切れに近いけど、言い換えとか新たな視点を突く話とか、そんなので良いでしょ。ペンを持ち直して、紙に書く。
「運命は信じるか」
唐突な言葉に、思わずペン先が止まる。運命、あるかもしれない。わたしはここ最近、デジャヴみたいなものを強く感じるから。きっとそういうことだ。
「そうか、同じことを言うのだな。まあ良い、天使には転生の機会があるのだ」
どうやら内容的にわたしには今関係無いから、聞き流そうと紙に集中する行為を再開する。
「天使の最高位に立つ者を無視するか、どういう神経をしている！？お前の脳を引っ張り出し、従順な天使になる思考回路に改造してやろうか！？」
誠に申し訳ございません、やめてください。頭をがっつり掴まれたので、紙とペンを放り投げる。ふんと鼻を鳴らしたような返答をした。しかし、頭の手はどかない。困惑していると、頭の通気性が一段と上がった。つまり、マスクを取られた。マスクありでも視界は支障なかったけど、一枚越しが無いからすごく威圧感がひどい。
何も言わずにわたしの顔を見て、マスクをテーブルの上に置いて両手でわたしの顔を包む。頬や額などを撫で、気が付くと唇の輪郭をなぞられ、マスクに包まれた顔が近づく。
「初めてだ……ここまで触れたのは」
顔が熱くてたまらなくなってきた頃、ふと手や顔の動きが止まる。どくどく脈打つ心臓は、落ち着かない。未だに至近距離だから。
「…………何を期待している」
唇を指で一撫でした後に、顔と手が離れていった。そして20枚の反省文の用紙を手にした。
「事実上司の天使より多く書いたのは変わりない、ここまでで良い。下がれ」
裏返った声で返答しながら、マスクと槍を手にしてふらふらの足で大急ぎで出て行く。途中何回もぶつかったけど、気にせずに駆けていく。
本当に周りの天使がいなくて良かった、熱い顔を隠して安堵しながら帰路を進んだ。
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