気にかける必要性が見当たらない ページ8
今日は槍を持って、武闘の訓練をする。何もできないのはダメだって、上司の上級天使に言われたから。それに槍に認めてもらわないと、何も抵抗すら出来ずにこの命を散らすことになるかもしれない。天国で命を散らすシチュエーションって何だろう。
「だから、ワタシの元に来たのかい？」
ここまで来るのに結構苦労したから、収穫はないと。似たような癖が強い武器を持っていた天使さんの話を聞かせて、もちろん武器の話ね。アダム様なんて、聞けるような雰囲気をしていないし。
天使とアラスターが仲良い話なんて、聞いてて気持ちが良いものじゃない。別に深い意味はない、別に他意は無い。本当だよ。
「武器の話はあまりしなかったから、そこまで話せないが……でも、武器は持ちたがらなかった。流血や怪我の無い和解があれば良いと、いつもぼやいていた」
そっか、わたしもそう思う。傷付けるのも傷付くのもイヤだから。今のアラスターみたいにフレンドリーな悪魔がいれば良いんだけど、そう言えば少し面白そうに笑った。
「ふふっ、本当に君は面白いね。特定の相手だけにこう接しているだけさ、周りは気にかける必要性が見当たらないのです」
あの更生施設のホテルの悪魔たちにも、時々不穏でも朗らかな態度で接していた。だから特定だけど、その相手は複数存在するみたい。
「この話はおしまい、槍で攻撃する素振りを見せてくれないかい？」
言われた通りに、重い槍を手で持ち直して突き付けるポーズを取る。至って普通に、他の天使の見様見真似。
急に近寄って、わたしの槍を持つ手に彼の手が重なった。びっくり、思った以上にどきどきしてる自分がいる。しっかり持ってくれているおかげで、自分でも難無く持てるようになる。でも、ちょっと恥ずかしい。なるべく槍に目が行かないように、アラスターに上擦った声でご教授を願ってしまった。恥ずかしい、やっぱし！
「相手に鋭い一撃を与える前提だと、力を籠めなければいけない。はい」
目の前の木にアラスターと一緒に力を込めて一突きすると、ミシミシと音を立てて突いた所からぺっきり折れた。自分がさっきまでしていたのは、木の表面を凹ませて窪みを作るくらいだったのに、たった一回だけでこう。
「悪魔に特攻作用が働いているのでしょうか。致命的になるなんて、とんでもなく強い槍ですね」
そうなの、じゃなくて！何でずっと、わたしの手を握って傍でにこにこしてるの！は、離れて、心臓がおかしくなる！
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