その程度はおかしい ページ33
しばらくあの施設は使えないらしくて、結局天国から地獄へ直通になった。どうしたものかなと思いながら、出会ったアラスターに何となく言ってみる。
「じゃあ、貴女はあの男の下で働き続けたいと？」
そうじゃないけど。そう思いながら言葉を吐いていたけど、現には打破というものが出来ていない。どうしたらできるのかな、人生相談みたいになっている。と言っても、もう人生終了してここにいるんだっけ。
そう思っていると、横の赤い悪魔はくすくす笑っていた。
「いやあ、彼もまた計算が合わずに慌てているでしょう。昔から彼の手の平の上で転がらなかった天使にそっくりなだけにあります」
くすくす、ずっと笑ってる。その天使は、すごい胆力と精神力を兼ねそろえていると思う。
「彼女はずっと言ってたよ、優秀な後輩の天使が毎度止めに来るって。大事にされているってのほほんと言っていましたね」
懐かしむように語る姿は、どこか愛おしそうで。むずむずもやもや、胸が痛い。多分、そういうことなのかな、アダム様に言われた言葉を別の人に言われたいって思ってしまったから。それが、この人なのかな。
「どうなさいました？」
何だかまるで、その天使が死んでから出会って一番大事な人みたいな言い方。良いな、そんな人に出逢えて仲が良くなれて、いなくなったけどずっと想われているだなんて。
「お手を拝借、これは邪魔ですね」
手袋のちょっと浮いていた布部分を歯で軽く噛んで引っ張り上げた。晒される素手、それは彼に手の平に口付けを落とされた方の手。
「あの時は昔の貴女に酷く助けられました、当時はまだ悪魔になり立てでしたから。色々教えてもらってもいたのです」
そして、また手の平に口を近付けて赤い舌を出して舐めてきた。急にぞくりと背筋が粟立った。
「恋でも愛でも無い、その程度はおかしいでしょう？A、貴女と共に永らく過ごしたいのです。ワタシはずっと待っておりました、彼女は彼女であって貴女は貴女です。魂の在り方は皆さん間違っておりません」
いつもの胡散臭い笑みは大分なりを潜め、楽しそうに笑いながら言う。まさかの言葉に驚いたけど、嬉しさがあって彼の頭を初めて撫でた。鹿のような見た目が若干混じっている悪魔さんだけど、それでも嬉しかった。だから、その言葉に頷いていた。
「これからもよろしくね、ダーリン？」
アラスターに抱き締められて、自分もその背に腕を回した。
「いつか、堕ちてくれると嬉しいよ……」
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