思い通りに動かない奴はただの役立たず ページ30
「じゃあ！また逢おー！」
見送られて、気が付くと天国に繋がる門の前にいた。赤から穏やかな輝く場所へと着いたせいで目がちかちかする。
門番さんに声をかけてから入り、いつも通りに穏やかな道を歩む。
「さあてと、この時間までどこにほっつき歩いていたか聞かせてもらうぞ？リュートですらもう帰ったぞ」
アダム様と対面していて、冷や汗がマスクの下で大量に流れる。わたしは一応エクソシストの天使たちとは近からず遠からずな立ち位置故にアダム様が首を突っ込みがちになる。仕事の位置が位置だけに仕方が無いだろうけど。え、っと、忘れ物があって。
「ほう、ほう？お前から漂わないはずのニオイがあるのは何だ？バカか？それでこの大天使を騙せると思うのか？バカだろ？」
何で同じことを繰り返すんだろう。しかもわたしから臭うって何が、もしかして汗か。
「汗をかくのは疚しいからだ！言え！」
勝手にマスクを取られて、目が泳ぐ。この人は勝手にあれこれしてくるから、本当に苦手だ。ゆっくり言葉を紡ぎ、わたしが地獄の王様に対面していたと告げる。
「……ルシファー……やっぱり彼奴か……」
急にわなわな震え出して、壁を殴った。建物が大きく揺れて、轟音が響く。
手が退かれた先にはぼっこり穴があいて、壁の先にいる天使と目が合った。ごめんなさいととにかくその天使に向かって言いながら、穴に紙をセロハンテープで貼った。
「ルシファー以外にも碌でも無い悪魔に遭ってただろ！ソイツもついでだ、言え！！」
言いたくない、言ったら今度こそダメだと思う。一番地獄で仲の良い人を裏切りそうだったから、それだけはイヤだ。自分に口出しされて欲しくない気持ちもとても強かった。
「お前……どこまで生意気になった、大天使の俺に指図できる程に偉くなったのか？お前はこの俺の駒の一つなんだよ！思い通りに動かない奴はただの役立たずだ！！」
急にローブの襟首を掴まれて苦しくなる。少し宙づりになって、ぱっと手を離されて地面に倒れ込む。視界がぼやけていると、両肩を抱き寄せられた。
唇に柔らかい物が当たった。一気に覚醒して、むりに唇を抉じ開けようとする舌に自分の舌をすくわれた。絡み合うもので、激しくてぺちゃぺちゃと水音が大きく響く。それがずっと続いて息苦しい。近くの胸板を勢いよく叩いた。
「―――下級天使のAは俺のものだ、小さな脳みそに刻んでおけ」
荒い呼吸をする中で久し振りに見た金色の瞳の男に、恐怖を覚えた。
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