もうそのように考えなくて良い ページ28
にこにこしてるけど、心ここにあらずな感じがするアラスターに声をかける。
「……ああ、何だい？御用は？」
大丈夫かな、そう声をかける。
「大丈夫、しかしご配慮くださりありがとうございます」
ずーっとにこにこしたまま。ちょっとそれは危ないと思う、だからしゃんとして欲しい。一緒に歩いているのだから、他のことに気を取られているのは悲しい。もやもやする。一緒にいられる時間は短いから、それが心に大きく残る。
「それでは、またお逢いしましょう」
天国が作ったらしい、見張り所の建物近く。そこに行くのを少し躊躇いつつも、彼の言葉をオウム返しっぽく言っていた。
「最期の別れじゃないだろう、ワタシはもうそのように考えなくて良いのですよ」
人間と天使の女性の友達、彼にとっては知人以上の関係の人を亡くしているのだ。無神経なこと言ってないかな、そう伝えるとまた笑った。
「お気になさらず、貴女の言動一挙一動全てワタシにとって不愉快なものではありません。何より貴女と過ごせることが、ワタシの喜びでもあるのですよ？」
くすくす笑いながら、わたしの頭を撫でる。でも、もしかしたら、ふとアダム様にもう出て行くなと言われたら悲しい。だって、大事な人たちに会えないことと同等なのだから。
「絶対にそうはさせない、ワタシは何があっても最後まで―――最期まで貴女の味方でいます」
真っ赤な目に射抜かれ、言葉に慌てる。
わたし、そのままの意味で受け取って良いの？わたしって馬鹿者ってよく言われるから、深くは考えられないよ。
「その言葉通りです、もう繰り返したくは無いのです。なんたってワタシの―――」
何か言いかけた瞬間に、跪いて手をそっと取られて手袋も外されて開かれた手の平にそっと顔を近付けた。柔らかな感覚と音が軽く響き、すぐに顔を離した。
「ふふふ、まぬけな雰囲気で。良いですね、これがワタシの意思ですから。覚えておいてくださいね」
わたしの顔をそっと撫でてから、満足そうに去って行った。さっきされた意味が分からなかったけど、彼に手の平をキスされたと気付いた。同時に顔が一気に熱くなった。
「あ、どうしたのさ。今日、エクソシストの方々が報告書を受け取りに来るんだけど……大丈夫？悪魔に何かされた？」
重い足を動かしながら、何とか建物内に入った。ずっと顔の熱が落ちないけど、マスクがあって助かった。何を考えれば良いのかなずっと赤い悪魔が脳内にちらついて集中できない……呪いじゃん。
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