夢で逢いましょう。 (ページ28)

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初めて利用した現場は何かと勝手が違ったけれど、どうにか予定時刻を少しだけオーバーして収録は終わった。平謝りの社員さんに挨拶をして外に出れば、来た時と同じ車の前でAさんは立っていた。

『お疲れ様です』

「Aさんも、お疲れ様」

『これ、よかったら。急な変更で、何も準備できていなかったので』

手渡された缶コーヒーは２つとも違う種類、どちらも撮影の時によく俺らが飲んでいるメーカーのだ。どこまでも頭が上がらないなと思いながら、今度は自分から助手席に座った。バックミラーで見つめた虫さんはなんだかびっくりした顔をしている。

「…Aさんのこと、ちょっと勘違いしてた。いつも無表情で淡々と仕事をこなす人だと思ってた」

『…あながち間違いじゃないと思いますよ』

「でも、今日はAさんに救われたでしょ？普通周辺の収録現場のスケジュールなんて把握してないよ」

『それは、私が不安なだけで…』

「それにコーヒーも。わざわざ買ってきてくれたんでしょ？現場の自販機になかったもん、これ」

「仕事熱心で、気配り屋さんなんだね」

『…やめて下さい。こういう時、なんて返せばいいのか私知らないんですから…』

両手でハンドルをしっかり握って変わらず前を見据える彼女の頬は真っ赤だった。運転してるから隠すわけにもいかないんだろう。無表情なのに、隠しきれていないそれがあまりに可愛く思えてしまって、少しだけドキドキした。きっと後ろの虫さんにはバレてるだろうけど。

『着きましたよ、ゆめまるさん』

「んっ…あぁ、ごめん。寝とった…」

車で来ていた虫さんを局まで送ってそのまま家まで送迎を頼めば快く引き受けてくれた、勿論無表情で。道中他愛もない話をしたけれど、少しずつ硬さは取れていったように思う。目覚めた今見る顔も真顔なんだけど。

『…ふっ、寝起きが子供みたい』

「、！」

不意打ちとはこのことか。道中一切表情を崩さなかったのに、突然こんな風に笑いかけられてしまったらそりゃ男はイチコロだ。それが可愛ければ尚更。またドキドキと高鳴る胸を押さえて車の外から手を振れば、遠慮しながらも振り返してくれた。あぁ、ダメだ。来週の収録がまた楽しみになってしまった。

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男も女もギャップって弱いよねって話。
冷静沈着に淡々と仕事をこなせる人に
私はなりたかったです(知らん)

2019.10.25 蒼姫