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それは本当に些細なきっかけ。元を正せば気が回らなかった俺の責任。それでも、そう冷静な判断が下せるようになった時には後の祭り、1人になった部屋に溜息が響く。
『ねぇ、靴下洗濯機に入れるとき丸めて入れないでって何度も言うじゃない』
「わりー、わりー」
『ペットボトルもこんなに空けるだけ空けて…洗ってゴミ出すの誰だと思ってるの』
こんな小言は日常茶飯事だ。基本的にはそういうこともやんわりと俺に注意しながら優しい彼女は最終的に自分でやってしまう。俺もいつも後になって悪いなと思い彼女に感謝を述べつつ気を付けようとその時には思うのだ。でもその日は違う、きっと虫の居所が悪かった。俺も、Aも。
「るっせぇな…母親かよ、」
次いで出た一言だった。その瞬間には、彼女に対する罪悪感も感謝もない。ただ煩わしい、そう思ってしまった。連日の寝不足に重ね編集に追われる時間帯。悪態付く俺の一言が彼女の耳に届くとも知らず。
『あっそう。私だってあんたの母親したくてここにいるんじゃないわよ。そんなに言うなら言われる前にやればいいじゃない』
面倒だと、そう思った。基本機嫌を損ねることのない彼女だ。昔から聞き分けはいいし何より他人の事を一番に考える。だからこそこうなった今、俺でも手がつけられないほどに厄介になっていると感じた。
「…悪かったって」
『…』
「A…」
抱き締めて、愛を囁いて、謝罪をすればいい。そう安直に考えた俺の思考はきっと彼女に読まれていたんだろう。身体を引き寄せる腕をやんわりと押し返され、涙で薄っすらと膜が張った瞳に睨まれる。ここまで来ると、俺の方も限界だった。
「んだよ、謝ってんだろ。何がそんなに不満なんだよ。機嫌悪いからって俺にいちいち当たってんじゃねーのか」
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作者名：蒼姫 | 作成日時：2019年7月20日 22時
