君と僕と僕らと (ページ28)

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「君、Aちゃんの彼氏だね。最近顔出さなくなったと思ったらそういうこと」
「いつも世話んなってます、酔っ払って迷惑かけてないといーすけど」

ビールで乾杯をして、適当に出てきたツマミを進めながら他愛ない話をして。それでもAはここに連れてきた訳を話そうとしなかった。俺はカウンター越しに仕事をしながら、時折話に相槌を打つそいつに敵対心剥き出しにならないよう努めることが精一杯だった。そっと彼女が御手洗に立ち上がったのを皮切りに男同士の会話が始まる。

「はは、警戒されてる。まぁ大丈夫だよって言っても信用されないよなぁ。その感じだと家まで送ったこととか知ってるんでしょ？」
「…」
「でもよかったよ。直接口には出さないけど、我慢の多い子でしょ？好きな子が居るんだろうなとは薄々勘付いてたけど、同世代の女の子みたいに惚気て幸せそうに話すこともない。きっと叶わない、苦しい恋をしてるんじゃないかって心配でさ」

…正直毒気を抜かれた。それは俺も良く知る、慈愛に満ちた瞳だった。両親や兄貴、これまで俺を温かく見守ってくれた人たちのそれとなんら変わらない。彼女をこんなにも大切に思ってくれて、側で慰めてくれた。そんな素晴らしい人に、俺は嫉妬してしまっていたなんてとすぐさま後悔の念が頭を埋め尽くした。

「なんか、すいません。俺…」
「あー、いいのいいの！まぁ誰だって嫌だよなぁ、知らない男が家まで送ってくなんて」
「そもそも、その時はあいつのこと意識してなかったんであれなんですけど…」
「なんだ、俺キューピットじゃん。こりゃ一杯奢ってもらおうかな？」

グラスを拭きながら肩をすくめてみせる憲さんに、本当に頭が上がらない思いだった。勢いで好きなの頼んで下さいなんて言ってしまった俺に、同じビールで乾杯してくれた所にAが戻ったきたもんだから、すごく不思議そうな顔をしていたけど。