【始まりの日】 ページ1
「ねェ、A〜」
甘ったるく粘ついた気持ちの悪い声に、私は眉をひそめていた。かわいこぶる彼女の声は、聴くに堪えないくらいに甲高く、不快だ。
「ねェ、ってば！」
気づかないふりをして読み続けていた本を閉じ、顔を上げた。部屋にずかずかと入り込んできた彼女と目が合うと、吹き出物だらけの赤黒い顔はみるみるうちに弛緩する。
『…何か？』
「なんだと思う？当てられたらァ…」
みみずのようにうねうねと体を無意味にくねらせて答えを焦らす彼女に、私は冷たい視線を向けた。
『何の用？』
私の一言に女の顔が凍り付く。慌てた様子で彼女は言葉を継いだ。
「ち、違うの…！アタシ、そんなつもりじゃなかったのよ…あなたを怒らせようとしたわけじゃ…」
『用件は？』
彼女の顔がさっと青ざめる。
「あなたにお客さんが来るから、応接間に行くように伝えろって…」
彼女は消え入りそうな声でそう言ってそそくさと部屋を出ていった。私の機嫌を損ねる事は彼女にとって恐怖でしかないらしい。まあ、あんなことがあった後では仕方のないことだ。
(だけど、一体どこの誰なの…？こんな時に来るだなんて…)
ラフな部屋着から、重苦しい色のワンピースに袖を通す。軽く姿見に目をやって、私はまた眉をひそめた。
前まで黒かったはずの髪が数日熱にうなされて意識を取り戻した時には金色に…なんて馬鹿な話が起こって少し経った。当然のことながら自分の見た目には、未だに慣れない。鏡の中に別人が映っているような違和感を感じる。
(それに金髪なんて…気に入らないわ)
金色の髪と生まれつきの青い目のせいで、私に鬱陶しい好意を向ける人間が増えた。さっきの女もその1人だ。
『なにがお人形みたい、よ。気持ち悪い』
吐き捨てるようにそう言って、姿見から目をそらすと外に出た。隙間風の吹く、薄汚れた廊下でぶるりと体を震わせる。
(もううんざり。ここの連中も、陰気臭い施設も、何もかも！)
母さんに会いたい、と思いかけたがその考えを頭から追い出した。そんなことを考えたって、どうにもならないのだから。
(にしても…お客さんだなんて。私にそんな相手はいないはずだけれど…)
応接室に足を進めながら、私は首を傾げた。迎えに来るような家族はもういない。里親が来るにはもう年を重ねすぎている。
(じゃあ、何の用で誰が来たっていうの？)
私はそんなことを考えながら、応接間の扉を開いた。
『失礼します』
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名無し(プロフ) - りとさん» いえいえ！とんでもないです！まだ全て読み終わってないのですが次々と気になってどんどん読み進めちゃいます(^^;)陰で応援しながら楽しみにしています！頑張ってください！ (2016年7月26日 21時) (
レス) id: 56539584bf (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - 名無しさん» 名無しさん、初めまして！うわぁ、すみません…ご指摘ありがとうございます！お恥ずかしい限りです… (2016年7月26日 21時) (レス) id: 78fb09e763 (このIDを非表示/違反報告)
名無し(プロフ) - はじめまして！とても面白くてワクワクしながら読ませていただいています！失礼ながら、途中からスタープラチナが「星の白銀」になっていました。「星の白金」ではないでしょうか？ (2016年7月26日 21時) (レス) id: 56539584bf (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - 彰さん» 影さん、初めまして！あ！ほんとだっ！！うわぁ、すみませんm(__)mご指摘ありがとうございます！ (2015年8月17日 1時) (レス) id: 78fb09e763 (このIDを非表示/違反報告)
彰(プロフ) - 面白いです！あ、でも塔の灰じゃなくて灰の塔では？ (2015年8月17日 1時) (レス) id: 5162fe57bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りと | 作成日時：2015年6月29日 2時
