110.その名は ページ18
『もし仮に私と契約しているのがこの魔生物だった場合、死蝶さんは私に影響されたこの魔生物の姿の一つで、』
「先日シアさんの様子がおかしくなったのは"侵蝕"の症例の可能性があるね」
まだ寄生状態での発見や"侵蝕"の症例など、どれも少なく学術的に命名・登録するには資料不足で、幻覚生物の一種と定められた以外は研究者は皆好きなように呼んでいて、思考実験に基づく名前から特徴をもじったコミカルな物まで好き勝手呼ばれてるらしい。
「契約によって主の命を脅かすような事は出来ないだろうけど、主が宿主だと話が変わってくるかもしれない。契約の切れ目を待てば契約を延長せず、他の魔獣と契約することも視野に入れられると思う」
『そうですね、2年の頭には死蝶さんとの契約が切れるはずです』
「前例も資料もほとんどない、その魔生物は君の周りだけではなくて君自身にも危害を加える可能性もある。だから、君はどうしたい?」
『私は……』
契約を延長したいか、と聞かれるとよくわからない。ただ契約したときにお前の命は私のものだとうっそり笑っていた死蝶さんの手綱を握るのを想像したら悪くない気分だと思えていた。
『出来るならこの"恐怖"を飼い慣らしてみたいです』
出来るなら、この"恐怖"を喰らう魔物の接し方を扱い方を使い方を、私が突き止めて首輪を嵌めてやりたい。それが私の答えだった。
「うん、わかったよ。でも少し心配だから困った事やイレギュラーな事があればなるべくすぐに相談してほしいな」
『わかりました。この生物の生態を少しでも明るみに出す為にもなにかあれば報告しますね』
感謝の言葉を述べて、今まで話を聞いていた授業準備室のような場所を出る。
次の瞬間、ズキンと頭が傷んだと思ったら、気付けば私はぼんやりと自分の知らない場所に立っていた。
穴のようなものがある。
指を入れるのは怖い。観察していたら、穴の中には沢山の感情たちが溢れていた。
何かに気付いて空いた穴の奥の方に手を伸ばす
『貴方の名前は、』
私は井戸。
その穴は井戸だった。井戸の奥にひしめき合うのはぐぢゃぐぢゃに腐った感情たち。目を離せない。頭が壊れて割れて、勝手に別の形になるみたいな感覚。
貴女が私を汲み上げるなら、
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『私は、』
恐怖と向き合って、__を……
「……さん!シアさん!大丈夫?」
バラム先生に声をかけられてハッと意識を取り戻した。
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アスルル - はじめまして〜コメント失礼します。凄い…主人公の感じがほんわりしているようで、しっかり自分を持っているのが良いと思いました。がんばってくださいね。 (9月11日 7時) (レス) @page17 id: 6edaad17fd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:郷音豆腐。 | 作成日時:2023年1月16日 15時