融ける弾丸【文豪ストレイドッグス】

飴玉が13個 ページ17

どこかちぐはぐな顔をやんわりと歪ませて、吐いた言葉が、どうにも。聞き取れなかった。否、聞こえなかった。とも言えるだろうか。

主に後ろからの恐らく複数人、しかもかなりの腕利きの武装した男たちが現れたからだ。

「………お早いご登場だね。そんなに私には信頼が無いかな？ねえ、」

森さん、と彼女は俺の背後に立つ黒ずくめの男のうんと後ろに向けて声を放つ。
声など聞いた事も無い雲の上の人が、俺の後ろにすっと立った。けれども俺はその人を知っている、どこかで。会った、あの。

「私が目を掛けている子を虐めてくれないで欲しいんだけどね、聞き入れては呉れないのかい？」

「目を掛けている？」

馬鹿馬鹿しい、と言わんばかりに女は首を横に振った。ばさりと黒髪が揺れる。ふっと見上げた時に合ってしまった目は酷く感情的だった。
それはどこまでも似つかわしくない、人間の様なものだった。

「あんな酷い環境で望まぬ事をさせてなにが目を掛けている、なのかな、ねえ？」

「あれは私の采配ミスだった。それは否定しない。けれども目を掛けている事には変わりないよ」

「ふぅん、……学友の大切な息子の片方を泡に沈めといて。上の息子には殺しをさせて。それでもそんな事を宣うんだァ」

森さんってば最低だね、と女は吐き捨てる。その言葉の端々に香る軽蔑の色が女を人間らしく見せた。馬鹿らしいと言いたげに女が鼻を鳴らす。

「貴方は昔からちっとも変わらない。結局人の事を駒としか思ってないからそういう事が出来るんだよ」

「…………君はねえ、感情で動きすぎるからよくないと思うのだよ。もっと合理的に考えなさい、そうすれば本当の幸せが何なのか分かってくるよ」

「それは組織の幸せであって個人の幸せで無いでしょう」

はぁ、と女は息をつく。

「森さんじゃあ私を止めるのには役不足だよ。ねえ？貴方が一番よく理解してるでしょう？」

「ああ、勿論ね。何せ君を見出したのは私だから」

口を挟む隙さえ与えられず、只管に投げ合われる言葉を眺めているとどうにも隙間が出来たようなので口を挟んでみた。

「……………………医師？」

「ああ、置き去りにして済まないね。久しぶり、一樹くん。思ったより健康そうで何よりだよ」

「…………近づかないでくれる？邪魔なんだけど」

「もう、葵ちゃんは冷たいねえ、云年ぶりの交流を邪魔するのかい？」

「邪魔も何も、割り込んだのは其方で私に非はないんだけどなあ」

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