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Side如恵留
「せん、せ、」
聴診器を耳から外した瞬間、かすれた声で呼びかけられる。
「しめ、気が付いた？」
だるそうな目が、腕につながった点滴に向けられる。しめの衣服を整えながら、患者に接するときと同じようにゆっくり語りかけた。
「忙しくても、きちんと食べて寝れるときに少しでも寝なさい。」
「……ごめんなさい。」
あまりに重く沈んだその声を聞いて、俺は思わずしめの顔を凝視した。この謝罪は、目の前の俺に向けたものではない。
重い沈黙が流れたとき、1人看護師がやってきて、遠慮がちに俺に耳打ちをした。
「……しめ。海人くんのご両親が、お前と話したいって。どうする？」
生気のなかったしめの目が、大きく見開かれる。行きます、と言ってそのまま起き上がろうとする体を押しとどめて、俺は点滴を中断する処置をした。
面会室にいた海人くんのご両親は、疲れ切った顔をしていた。それでも、しめを見た瞬間立ち上がって頭を下げる。
しめも、無言で頭を下げた。少しの沈黙の後、海人くんのお母さんが口を開く。
「先生、」
「……はい。」
「最後に触ったあの子の手、とっても、温かかったんです。」
しめが、顔を上げる。その目は抑えようもなく潤んでいた。
「ありがとうございました。あの子のために、一生懸命になってくださって。」
もう一度頭を下げたご両親と一緒に、しめも頭を下げる。2人が去ってからも、しめはずっと頭を下げていた。
「しめ。」
呼びかけながら肩に触れると、しめは床にしゃがみこんだ。俺もその隣にしゃがんで、震える肩を手荒く抱き寄せる。
「海人くん、助けたかったな。」
海人くんのご両親が言った通りだ。力及ばなかったけれど、しめは本当に一生懸命だった。でも、助けられなかったという事実に勝てるものは何もない。
「無理に割り切れとは言わないよ。人の命だ、簡単に割り切れなくていい。……その代わり、一生背負うぞ。背負って歩き続ける強さは、絶対必要だ。」
鼻をすする音に重なって、携帯の着信音が鳴る。救急の手が足りないから、研修医を寄越してくれとの連絡だった。
「先生。俺、行きます。」
「行ってこい。」
ガーゼの貼られた手で、しめが乱暴に涙を拭う。1人で立ち上がったしめは、もう振り返らない。
重いものを背負った背中は、遠くへ真っ直ぐに駆けていった。
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おさと(プロフ) - もなかさん» もなか様、こんにちは！コメントとっても嬉しいです（ ; ; ）こちらこそ、素敵なリクエストを本当にありがとうございました！！ (9月3日 17時) (
レス) id: e06b49d6d2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか(プロフ) - とても素敵なお話をありがとうございました!リクエスト自体初めてであんなざっくりした内容がこんな素敵なお話になるなんて思ってなかったです!キュッとなってホロリとしてホワッと心温まりました。ありがとうございました! (8月30日 22時) (レス) @page14 id: 4ecbc78f68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おさと | 作成日時：2023年8月20日 19時
