149.(side S.M) ページ1
Aからの突然の電話は、それはもう俺を驚かせた。
地元に帰る事にしました、と律儀な報告。
間違いなく原因はあの記事やろ。
少し前に様子を見に行った時は元気そうやったのにな。
最後にはいろいろとありがとうございましたと礼まで言われてもうたけど、別に俺は何にもしてへん。
それにしても、そうか…店閉める事にしたんや…。
長いこと顔出してたお気に入りの店や。それがなくなると思ったら寂しくなるもんで。
若と何処に飲みに行ったらええかも困ってまうわ。
せやけど俺がAを引き留める理由はないから、無理すなよ、くらいしか声をかけてやれへんかった。
たつは大丈夫やろか。
この年になってちゃんと事務所に話を通して、一緒に暮らし始めたわけやから、そんなに軽い気持ちやなかったやろ。
案の定、電話の後に会うたたつはえらい暗い顔しとった。
もちろん仕事に影響させるような事はせぇへんけど。
「…たつ」
収録終わりしんどそうな顔して、一目散に帰ろうとしとるたつを呼び止める。
振り返って、察したようにたつが緩く微笑んだ。
「Aなら、少し前に地元に帰ったで」
「…おまえは大丈夫なんか？」
「…ありがと。大丈夫やで」
大丈夫そうには全然見えへんけど、薄い笑顔を浮かべたまま。
ほなお先、と軽く手を上げてあっという間に楽屋を出て行った。
「…なんかあったん？」
メンバーやってもちろん気付かんはずがない。
たつの背中にお疲れと声を掛けたヨコが、聞いてくる。
マルもヤスも心配そうな顔でたつを見送った。
俺も2人がどうなったかなんて知らんけど。
Aが店を閉める事にして、地元に帰った。そのせいでたつの顔が暗い。
言わずもがな…やろ。
「Aと別れたんちゃうか？」
「…そうか」
何処か寂しそうにヨコが呟いた。
いっつも気にしてへんみたいな顔しとるくせに、誰よりも心配してるのがバレバレやねん。
言うても俺かて暗い顔しとるたつが心配で。
かと言って俺らがどうにかしてやれる事でもない。
時間が解決するんを待つしかないんやろな。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年8月16日 20時
