150.(side S.M) ページ2
そのうちに決まっていたツアーの準備が始まって、忙しさに拍車が掛かる。
あれからもう半年が経っていた。
時間が経ったおかげか仕事の忙しさのせいかはわからんけど、たつの暗い顔を見る事はもうなくなていた。
「…たちょ、ちょっと太った?」
「そうやねん。やっぱりわかる?」
ダンスレッスンの休憩中、ペットボトルを口に含むたつをまじまじと見つめるマルが、隙をついて腹に手を伸ばす。
Tシャツを捲ろうとしたんか、腹を摘もうとしたんかはわからんけど、反応したたつが身を引いた。
その拍子にペットボトルの水が溢れてもうたんやろ。
嫌そうな顔して手とペットボトルを交互に眺めとる。
「止めろや、もー」
「ごめーん」
「ごめーんちゃうわ」
置いてあったタオルで手と口を拭いて、マルにそれを投げつけた。
確かに言われてみれば太ったような気もする。
チラリとたつの体に目をやった。まぁ、ほんま言われてみれば、程度やけど。
「何太り?」
「何太り?ここんとこずっと不摂生やからちゃう?」
「…あぁ……」
「聞いといてその反応なんやねん」
「いや、別にそうなんやと思っただけで…その、まぁ、なんちゅーか…ツアーやしすぐに戻るんちゃう?」
罰の悪そうな顔をしてしどろもどろに答えるマルに、たつが呆れたように笑った。
「変な気遣わんでええねん」
「遣ってへんて」
「嘘つけ。Aがおらんから不摂生になったと思ったのは誰や」
「…ごめん。俺や!」
「そうや!ただの失恋太りや!って言わすな!」
冗談めかすたつにマルも笑って返して。
そのうちになんのスイッチが入ったか知らんけど、マルが変な動きを始めよった。
いつものように手を叩いて喜ぶたつの笑い声が響く。
そんな姿にすっかり吹っ切れたんやと、俺は勝手にそう思っとった。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時