87.(side T.O) ページ38
そろそろ桜も咲き始める3月。
去年は結局行かれへんかったから今年はお花見連れて行ってあげたいなと思いながら、目の前の鍋をクルクルとかき混ぜる。
すっかり慣れたAの部屋。
オフやったから昼間に用事を済ませて、合鍵で上がり込んで、勝手にキッチン借りてカレー作っとる。
部屋中に充満するそのええ匂いに、ぐぅ〜っと腹の虫が音を立てた。
はよ帰って来ぉへんかな、そう思ってるとちょうど今から帰るね、とAからの短いメッセージが届いた。
最近ようこっちに帰って来とったから、今日はAのおらんこの部屋が無性に寂しくて。
すぐに迎え行こか?と返したのに、返事はなくて、画面見つめてただ返事を待つその時間さえもどかしい。
もう着くから大丈夫ってスマホが震えたのは随分経ってからやった。
ガチャリと玄関が音を立てたのはそれからすぐで。
待ち侘びた俺は、慌てて立ち上がった。
玄関まで出向くとガラガラと大きな荷物を引きずりながら、ただいまと微笑むAがようやく帰って来た。
「おかえり。ドレスちゃうんや」
「結婚式昨日だってば」
「知っとるけど。ドレス姿見たかったんやって」
「そんな見せれるようなもんじゃないから」
それを聞いたのはほんの1週間前やった。
幼馴染のゆきちゃんの結婚式があるから地元に帰る、店も休むって。
久しぶりだから実家に泊まってくるって。
それはまぁ、ええんやけど。もっと早く言えたやろと思わん事もない。
それでもニコニコ俺に抱きついて、帰ってきて忠義くんいるとホッとするとか言われてもうたら、そんな些細な事はどうでもよくなってくる。
「なんか良い匂いするね?」
「オフやって言うたやん。カレー作ってあんで?食べる?」
「食べる!」
お腹ペコペコと嬉しそうなAと一緒に準備して。
今日も美味そうに食べるその姿を眺める。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年5月10日 17時