ep5.この紐を解いて 1/7 ページ9
それは吉田松陽と旅を共にしはじめて、数日が経った頃の話だった。
山奥の古いお寺の近くに廃屋を見つけて、そこをしばらくの拠点にしようとした時のこと。
「一周回ってみたけど、人の気配はなさそうだよ」
廃屋を一周、ぐるりと回って正面に戻り男にそう告げる。
「それはそれは……。今日は野宿が防げそうですね」
「今日も野宿だったらだいぶしんどかっただろうし、ラッキーってやつだよね」
衣食住が少しでも保証されれば生活はすこぶる楽になる。どうにかしてそのうちの1つを確保できたことに二人で安堵したものだった。
男が廃屋の建てつきの悪い玄関の戸をこじ開ける。
小屋ほど粗末ではないつくりのようで、扉が少し空いて中を確認するとすっかり埃を被ってしまってはいるが、しばらく仮住まいするには問題のない設えの様子に安心する。
数日前のあの出会いから、この男と行動を共にしているのだが、今日まで野宿ゆえに不便なことは多々あったのだ。夜に二人揃っておちおち寝ていることなんてできない。
この男は自分が起きていると言い張り聞かず、焚火の火の面倒を見つつ寝ずにいたのだ。それも、旅を共にしてからずっとである。
数日もそんなことが続けばこちらの気持ちは居た堪れないものだった。
「しばらくはここを拠点としましょうか」
という男の言葉にうなずく。
それに、男が数日寝ずに起きていたことだけが不安なのではなかった。度々物思いに耽っている様子であったのだ。
何を考えているのかわからないが(もとより、出会った時からどこかつかみどころのない人であることはわかりきっているが)、と時折顎に手を添えていたり、どこか上の空のようであったから。今日こそは、どうにかしっかり休んでほしいと思うのだ。
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作者名:きびもち | 作者ホームページ:https://twitter.com/c6h12o6_kbmt
作成日時:2021年5月21日 19時