ep12.教育は味を占めて 1/5 ページ37
「せんせい、名前、また明日〜!」
きゃいきゃいと私と同じくらい、もしくは少し小さい子たちが声をかけて手を振る。
「ハイハイ、またね〜」
とこちらも手をひらひらさせながら門前まで出てその後ろ姿を見送った。門には松下村塾と書かれた札がつい先日からかけられるようになった。そう、ついに松陽の夢であった手習いや県を学ぶ学び舎が表立って開かれるようになったのだ。
まだまだ生徒数は少ないけれど、滑り出しとしては上々と捉えて良いだろう。
「松陽、今日の夕餉は何にしようか」
ぎゅるるるる、と間抜けた音を鳴らす自分の腹部を右手で撫でながら尋ねてみる。夕餉に悩めるなんて、大変贅沢なことではあるのだが。
開塾して以来、松陽は塾の方向性として貧しい子供に無賃で手習いや剣を教えることを決めたらしい。今まで金銭面や家庭の事情でどうしても寺子屋などに通わせることができなかった家からはそれはもう感謝された。
しかしながら、人間、無償の施しというのはやはり気が揉めるもので、金銭的なやり取りはないけれど、週に何回か畑でとれた作物を持って門を潜る親御さんが後を絶たない。
3人暮らしの家計は常に火の車であったので、とてもありがたいものであったし、今まで遠ざけられることが普通であったこともあり、こんなに懇意にされご近所付き合いなるものをすることになるとは考えておらず、最初の頃はどうしたものかと3人で頭を抱えたものだった。
今まで道を歩けば畏怖のような視線を向けられることはあれど、「あら、名前ちゃんじゃないの、これ持っておいき。みんなでお食べ」などと温かく接せられることは無かった。それもこれも、松陽のおかげと思いながら頭を下げてありがたく頂戴するようになった。
そういう訳で一時は食糧難に追い込まれていた過去もあるこの家計はかつてないほどに潤っているのだ。いや、今までが最底辺だったのでそりゃあ上がるしかないのだが。
「銀時も、名前も食べ盛りですからね……。
といっても、きみの食欲は最近爆発の度合いが違いますよね」
「そう?別に普通じゃない??」
「一食であの鍋の米を平らげるのを普通と言われても……」
「今までは家計的に難しいからセーブしてたことがほとんどだけど、最近はままならなくなってきちゃってさあ……」
これでも悪いとは思っている。と罰の悪い顔を浮かべる。
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作者名:きびもち | 作者ホームページ:https://twitter.com/c6h12o6_kbmt
作成日時:2021年5月21日 19時