★ep9.宙ぶらりんな私たち 1/3 ページ29
とある夜更けの話。
3人で暮らし始めて少し経った頃。
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夜も深まってきて、丑一つ時といった頃合いだろうか。
月明りだけが、襖と襖のわずかな隙間から畳を照らしているのが寝ぼけ眼の中見えた。
寝る前に少し開けたままだっただろうか。
秋の夜の空気は肌寒く、冷たい。寝床に入る前に、しっかりと閉めたはずなんだけどなあ、なんて思いながら立ち上がる。
襖と襖の間から差し込む明かりを辿るように、視線をすっと上に向けて、夜空に浮かぶ月を眺める。
今日の月はいつもに増して明るいと思っていたが、満月のようだった。
(じゃがいもを真っ二つに切ったときの断面みたいだなあ、)
ちょうど、昼餉の支度をしていた時に切ったじゃがいもの断面がこんなであったと思い返す。
こんなこと、松陽の目の前で言えば風情がないだとか、もっといい例えがあるだとか言って笑われるだろうか。
そんなとりとめもないことを考えているとふと喉の渇きに気づき、これも起きたついでと思い立って水でも飲みに行こうと襖を開けた。
縁側と居室に挟まれた廊下を裸足で進む。
空気でよく冷えた床で足の裏がひどく冷たい。
早く布団に戻らなければ、と考えていたがふと体に風の流れを感じて足を止める。
いったいどこからだろうか。まあ、この家の隙間風ときたらどこからでも入り込んでいそうではあるんだけども、とか、どっか扉閉め忘れてんのか?、と思いつつ来た道を戻ろうと後ろを振り返ると自分が出てきた部屋の襖を超えてさらに奥まで続く廊下の床に座り込んで外をぼうっと眺める銀時が見えた。
考えてみれば自分の隣の寝床に厚みがなかったような。
進んできた道を戻って、
「なーにしてんの、こんな寒いところで……。
寝れないの?」
と尋ねれば視線は外に向けたまま、銀色の頭が縦に揺れた。
しばらく間が空いてから、銀時が口を開けて呟くように言った。
「おちつかねぇんだよ……ずっと、生きているのが周りにいるのが」
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作者名:きびもち | 作者ホームページ:https://twitter.com/c6h12o6_kbmt
作成日時:2021年5月21日 19時