★ep6.空の青さが解るまで 1/2 ページ16
旅路を共にしていくらか経った頃の二人の暮らしの小話。
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「どうしたんですか、空なんか見上げて」
縁側に腰をかけて、だらっとした姿勢でぼーっと空を見上げているとそう声をかけられた。
何か面白いものでも見えましたか?、と尋ねる松陽は暑さなんてものともしないような澄ました顔をしている。
汗一つ顔に浮かべないその佇まいは、到底同じ人間だと思えないな、と思う。
「作業はもういいの?」
「休憩ですよ、休憩」
手首が腱鞘炎になりそうだ、と苦笑いをこぼした。
最近の彼は日がな一日筆を執って、机に向かうのを毎日繰り返している。
理由を聞けば、近くに街に降りたところ、いい本が手に入ったとかで彼の夢である私塾を開くために教本づくりに勤しむことにした、というのだった。
教本なんて大層なものが無くたって、松陽さえいればそこは学び舎になるだろうに、とも思わなくはないが彼の熱意の強さを今まで見てきたので、ふうん、と相槌を打ったのは数日前のことだ。
現にこれまでだって、旅を共にしているときにたくさんのことを教えられてきた。
例えば言葉。なんだってよかったが、女の子は基本的には一人称は、わたし、というのが一般的だということ。
この太陽がぎらぎらと照り、山の緑が一層色濃く見え、茹だるような暑さとなるこの時期のことを、夏、というのだということ。
出会う前までは、文字通り、何の比喩なしに死んでいるように生きていて、日常は代り映えしない、白と黒で配色されたように世界は見えていた。
しかし今では、一変してこの世はこんなにもきらきら、ちかちかしたものであったかと驚くほど煌めいて見えるのだ。
それは、このどう考えてもこの男、吉田松陽のおかげであることはわかりきっている。
塾なら、もう開いているだろう。と言えば、それもそうでしたね。
と笑う松陽にわたしは笑った。
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作者名:きびもち | 作者ホームページ:https://twitter.com/c6h12o6_kbmt
作成日時:2021年5月21日 19時