58匹 ページ12
「すみません、国木田さん。十秒ほどお時間いただいても宜しいでしょうか?」
先に邪魔をすることに対して謝りつつ、割いてもらう時間を伝えることで相手への配慮があることを示すべしってシスターが言ってたが、使い方がこれで合ってるかわからねぇ。
誰か答え合わせさせてくれ。
そう心の中で叫んでいるとトーテムポールもとい国木田独歩が振り向いた。
「こちら太宰さんの机にありました。国木田さんが探していらっしゃったと伺ったのですが、これでお間違いないでしょうか?」
秒単位で予定を決めるほど時間に厳しい人間だと資料にあったので、そう早口に告げて持っていたファイルを差し出す。
国木田独歩は手を伸ばしてファイルを受け取り、その表紙にある文字を見ると溜息を吐いた。
「・・・・・・ああ、これだ。助かった」
最後の言葉だけ俺に向かっていうと国木田独歩は再びパソコンに向き直って作業を再開した。
時間計ってないから正確にはわからんけど、まじで十秒くらいだった。
「高村さん。お二人に渡してくださってありがとうございます」
棚の前に立ってファイルと睨みあっている中島敦のところに戻れば。奴はホッとしたような表情でお礼を言ってきた。
「いえ、私の方こそご自身の仕事がおありでしょうに、整理を手伝っていただいてありがとうございます」
いえいえ、いえいえ、と日本人特有のよくわからん譲り合いみたいなのをしながら、中島敦が持つ資料を受け取って棚に戻す作業を開始する。
どうやらこれは元受けと時系列順に並んでいるらしく、判らないものは中を改めて確認するしか無いそうだ。
二年前の資料もあるらしいから、一体あの木乃伊はどれだけ溜め込んだのだろう。
棚から引っ張り出してきて戻してないだけだと思いてぇが、二年前からずっと奴の机に置いてあったのかもしれないという仮説が生まれてしまったせいで、急に気分が萎えた。
だって虫とかいるかも知んねぇじゃん。
ヤだよ、虫なんかと格闘すんの。
あんな地に伏して足いっぱいあって変に光ってよくわからん方向に急旋回するような虫どもの相手をすんのは絶対に嫌だ。
もし仮にそうなった場合は逃げる一択だ。
63人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:笹山花音 | 作者ホームページ:
作成日時:2019年3月25日 10時