第2話 : 信じる ページ4
「この学校広いから、一年生のうちはみんな迷うんだよね」
星野先生は廊下を歩きながら言った。
「そうなんですね。こんな充実した設備初めてで、本当にすごいです」
「でしょ。それがこの学校の魅力の一つだから」
星野先生は楽しそうに笑う。この人の魅力の一つは、間違いなくこの笑顔だ。
「Aはなんでここに来ようと思ったの?」
率直な質問に、思わず言葉が詰まる。
でも私は、何故かこの人になら本当のことを言ってもいいような気がした。
「私、レベルの高い中学に通ってたんです。でもその中では成績が悪い方で、いじめられていて。親から期待された生活も息が詰まるような毎日でした。高校受験で名門校を受けたものの完全玉砕。周りの目が怖くて、逃げてしまいたくて、家を出てこの学校に来ました」
「そっか」
星野先生は考えるように俯く。
「すいません、変なこと言って」
私は苦笑して気まずい空気を紛らわそうとする。
一方で星野先生は首を振る。
「新しい環境に慣れるのって難しいことだけど、実は一番面白いことだと思うんだよね。Aもきっといつか、この学校に来てよかったって思えるようになるよ。だってほら、俺とこうして出会うことだってできたし」
星野先生はまた笑う。
そんなことを言われたのは初めてで、私は泣きそうになって星野先生から目を逸らす。
人と接することが怖かった私を、先生は心から受け入れようとしてくれている。
「先生」
「ん?」
「先生のこと、信じてもいいんですか?」
星野先生はゆっくりと頷く。
「もちろん」
人と出会うことがこんなにも嬉しくて素敵なことだと気付いたのは、今日が初めてだ。
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作者名:佐々木さん | 作成日時:2020年12月7日 2時