第16話 : 噂の ページ18
「こんにちは」
窓枠に軽く腰をかけて休み時間を過ごしていると、突然教室に入ってきた先生に声をかけられた。
次の授業は世界史だから、その担当の先生だろう。
「君が噂の立花さん？」
「え？」
私が困惑していると、先生はくしゃっとした笑みを浮かべた。
「いや、入試で満点を取ったって職員室で話題になってたよ」
初めて知らされた事実に、私も驚く。
「あの、先生は…」
「あ、申し遅れました。世界史担当の高橋一生です」
先生は綺麗に指を揃えた手を体の横につけ、直角にお辞儀する。
低い声が魅力的な、優しそうな先生だ。
「職員室で噂されてるなんて、恥ずかしいです」
「ちなみについさっき、数学の中村先生が嬉しそうに職員室に来て、立花さんが初めて授業で寝たんだって言ってたよ」
先程の授業のことを思い返し、顔が熱くなる。
そんなことまで話されているとなると、授業中も気は抜けない。
「そんなに優秀な生徒に授業できるなんて幸せです。テストは難しくしちゃおうかな」
先生は悪戯っぽく笑いながら、楽しそうに授業の準備をした。
そうこうしているうちに、始業のチャイムが鳴る。
私はもう少し先生と話をしていたかったが、仕方なく自分の席に座った。
「はい、席ついて〜」
廊下から教室に入ってくる生徒に、先生は声をかけていく。
女子生徒は、恐らく初めて見る高橋先生を前にして、嬉しそうに小声で囁き合った。
「めちゃくちゃかっこいいんだけど」
「仲良くなりた〜い」
私はそれを聞きながら、何故か優越感に浸っている。
そんな自分が意地悪くて嫌になりそうだったが、他の生徒より、少しでも先生との距離を縮められたことは確かに嬉しかった。
高橋先生は他の授業と違って、早々に今後の方針を伝え、残った時間は少しだけ教科書の内容を進めた。
私は疲れをなんとか誤魔化しながら、必死に先生の授業に食らいつく。
先生のテストで、絶対に満点を取ってやる。
気づけばこんな考えが頭の中を駆け巡っていた。
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作者名：佐々木さん | 作成日時：2020年12月7日 2時
