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レジの松村くんは、いつも無表情だ。何もかも機械的にこなす。
そんな彼だが、唯一それを覆すのがイートインスペースにいる樹くんだ。
女の子達を見送った樹くんは、そのままレジに行く。
そう、ここからが最高なんだ。
俺はまだ商品に悩むふりをして、レジ方向に視線を向けた。
俺の向かいにはパンがある。
｢北斗ー、北斗ってばー｣
俺は彼をネームプレートにある松村くんと呼んでいるが、北斗というのはきっと下の名前。
イートインの彼は、樹。二人揃って綺麗な名前だ。
｢……樹、｣
｢あーもう、ごめんって｣
｢……買うものもなしにレジ来んな｣
｢待って待って、買うって。………また、肉まん一つ｣
｢樹に食べ切れんの｣
｢バカにしすぎじゃない？ 肉まん二つは、…多分入るわ｣
｢あっそ｣
｢ねぇ北斗、そんなに怒んないでよ｣
｢別に怒ってない。いつものことだし｣
｢それ怒ってるよなぁ、まぁじでごめんって｣
この会話も可愛い。
松村くんは、樹くんとの会話で一気にイメージが崩れる。
初めて二人の会話を聞いて、松村くんの表情を見た時は冗談じゃなく腰を抜かすかと思った。
その時の会話は今でも覚えてる。
『へぇ、今日こっちなんだ』
『そう。三個買ったらファイル貰えるっていうから買った』
『あー、ね。……ファイル忘れてない？』
『あ、忘れてた！ 取ってくる』
『もう、樹のバカ。言わなきゃ良かった』
『いや酷くね？』
その時の悪戯で楽しそうな笑顔といったらとんでもなかった。
同時に、樹くんに対してだけ砕けた口調に、なぜか俺が心奪われそうになったのだ。
｢北斗、帰り一緒にポッキー食べよ？ ね、それで許して｣
｢……ポッキー、｣
｢そ。さっき買ったやつ｣
｢…別に、怒ってるわけじゃないから｣
これが『尊い』ということなのだろうか。
松村くんだけでなく、いつもレジをする松村くんを、イートインスペースから見守る樹くん。
時に優しそうな顔をして、パフェやお菓子を頬張りながら見守る樹くんも、中々興味が湧く存在なのだ。
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作者名：更紗 | 作成日時：2023年2月2日 12時
