･ ページ43
･
｢ねぇ、樹？ なんか今日変だった？｣
北斗が運転する車。
｢え、そう？｣
北斗の匂いが充満する。…あれ、俺キモくないか。
｢うん。なんか、…変だったっていうか、……いや、全然変じゃなかった｣
｢なんだよそれ｣
ほんの数十センチの距離に、北斗がいる。
俺はさ、北斗絡みなら、いつも変だよ。だから通常運転ってやつ？
なーんて、本人には言えない。
なんだろ、柄じゃないっていうか。…まぁ、正味ただの照れだが。
｢いや、樹はいつも照れてるなって思ったんだよ｣
｢っ、｣
なんだよ、見透かされてんじゃん。
そういうことするから俺は素直に物を言えない。言わなくても分かるだろと思ってしまうから。
あぁ、こんなんじゃ面倒な女と同然じゃねぇか。
｢…ふは、かわいいよ、樹｣
信号待ちで停車中に、ふとこっちを向いてそんなことを言うものだから、照れは倍増してしまって、視線の行き先は窓から見える景色しかなくなった。
｢そういえば、もう六月だね｣
｢なんか遅くね？ もう何日か経ってっけど｣
普通そういうのって一日の日に言うもんだと思ってた。
…いや、俺はズレてない。
｢まぁ、そうなんだけど｣
｢…なんか言いたいことでもあるの？ ……あ、誕生日？｣
急にこんな話題を振るなんて何かある。それに、口を噤んで何かを考えているこの表情が、それを物語ることなんて付き合っているうちにすぐ分かる。
｢そういやジェシーの誕生日とかもうすぐじゃん。その日六人で入ってたっけ？｣
慌ててということはないが、仕事の有無が気になって、素早くスマホを取り出した。
共有されているスケジュールで、一週間後を見た。
｢あー、十日なら入ってんな。じゃあみんなでのお祝いはその日に____｣
｢____その話じゃなくて｣
と、北斗に遮られて驚いた。
勝手に誕生日のことだと思っていて、結構喋ってしまったなと反省した。
そういえば相槌のひとつもなかった。
｢…っえ、ごめん。じゃあなに？｣
他に何かあるだろうか、と考える。
今日嫌というほど聞いたあの日は、…。
いや、ないな。
自分でも秒で切り捨てたと自覚するほど、素早くその選択肢は消えた。
｢ね、樹。もう俺らって付き合って四年は経つよね｣
｢…うえ、まあ、そうだな｣
急すぎる話題に、頭がこんがらがった。
…付き合った記念日、ではない。
･
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 611人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：更紗 | 作成日時：2023年2月2日 12時
