･ ページ19
･
jr side
｢…ねぇ、先生？｣
｢あ？｣
｢相変わらず先生がする返事じゃないですね｣
ふふ、と控えめに笑うその姿は、二年前から変わらずミステリアスで、妖艶で、どうも惹かれる。
初めて会った時には、何だこの冷酷な奴、と思ったものだ。
クラスメイトが何をしようと、どんな思いをしていようと、その表情は無を保ったまま。
そんなこいつが初めて俺の前で笑ったのが、……あれ、いつだった？
初めて見た時からその感想は今も変わらずだから、特に記憶がない。
けど、その笑顔を初めて見た瞬間、俺は落ちた。それだけは覚えてる。
｢俺、卒業しましたよ｣
｢……ん、おめでとう｣
｢ありがとうございます｣
｢もうお前もこの校舎には来なくなるわけかー｣
｢…ね、俺が何言いたいか分かってますよね｣
北斗という生徒が、何を言いたいのか。
こう言うと語弊が生じるが、……まぁ、俺が撒いた種というかなんというか。
･
｢樹先生｣
｢ん、なに？｣
北斗が一年の頃の冬。まだ雪なんて北海道しか降ってないんじゃねぇの、って頃の冬。
｢ぶっちゃけ俺のことどう思ってますか｣
｢…どう思ってる、？｣
当時文化祭の実行委員を務めていた北斗と、その担当を任されていた俺とで、空き教室で二人作業をしていた時のこと。
｢先生、恋人いないんですよね｣
｢…は？｣
｢どうなんですか？｣
｢……いや、まぁ、いないけど｣
｢じゃあ俺とかどうですか｣
｢……っ、はあ？｣
突然すぎる一言。唐突すぎる内容。反応と言える反応は、驚愕のみである提案。
多分、これが最初。最初はどことなく躱してきた。運良く横槍が入ったり、何かを言い訳にしたりして。
けど、その最初の時より前から俺は、……こいつの笑顔を知ってた。
｢先生、俺のこと嫌いですか｣
もう何度目かも分からない。けれどその何度目かで、北斗のセリフは少し違った。
｢嫌いじゃねぇ｣
｢じゃあなんで誤魔化すんですか｣
｢…それは、｣
｢教師と生徒だから？｣
俺の葛藤は、いとも簡単に見破られていた。
特にムカつくのは、俺が北斗のことを好きでいることを前提にした一言だってこと。
｢……図星ですか？｣
｢…さあな｣
｢俺は本気です。先生は？｣
｢それさ、一時の感情って可能性もあんだろ。お前が卒業するまで、気持ちが変わんなかったら、答えてやる｣
これを、律儀に覚えていたわけだ。
･
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 611人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：更紗 | 作成日時：2023年2月2日 12時
