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「A、この資料は此方に、これは彼方だ」
『うん』
「後、これは………」
『此方?』
「そうだ、其れで此れは………」
『彼方、かな』
「………この山、しまって来といてくれ」
『はーい』
国木田と資料整理を始めて一時間弱経った頃。
Aは書類整理の仕事に慣れて、完璧に内容を覚えてしまった。
国木田は何故か其れを苦い顔で見てくる。
『資料…とって、くる……』
書類が片付いて来たので、取りに行こうとポツリと呟いて、出て行こうとすると、国木田が待ったをかけた。
不思議に思い振り向くと、彼は資料の一覧表を見てから言う。
「俺も行く。
資料で、気になるものがあってな」
了解の返事をすると、椅子にかけていた腰を浮かせ、近くにあった扉に手をかけた。
先に開けてくれたので、感謝を伝えて進もうとすると、国木田が此方を見てくる。
『………?
どうし、たの?』
「………………否、何でもない」
国木田の態度に首を傾げながら、資料室を後にした。
****
『………重くない?』
「平気だ、これぐらいなら。
其れに、《資料を床にぶちまける》とは書いてなかったからな」
『………………そ』
国木田の言葉に軽く頷いて、国木田が資料をぶちまけているところを想像した。
彼の慌てている姿が目に浮かんできて、思わず笑い出しそうになってしまう。
「………どうした、変な顔になっているぞ」
『何で、も…ない………変な顔?』
「ああ」としれっと言ってくる国木田に少しだけ傷付きながら癖になりつつある、頰を捏ねくり回した。
忘れようと思えば思うほど思い出してしまう国木田の想像は、Aを殺しに掛かっている。
落ち着くまでずっと頰を捏ねくり回していると、流石に頰が赤くなってきたのでやめた。
両手で荷物を抱え直して、昇降機を降りた。
『あれ?
………あれ、敦…くん、じゃない?』
「む?
こんな所におったか小僧、お前の所為で大わらわだ。
Aが先刻から何度も資料を抱えて往復している」
何やら大きな風呂敷を抱えた敦が非常階段を降りてきている所に遭遇。
国木田が敦に声をかけても、反応しない敦に首をかしげる。
だって、敦はこういう時、ふやけた顔か、情けない顔で此方を見て来るのだから。
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革ベルト
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梶井基次郎
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作者名:鸞宮子 瑩 | 作成日時:2019年11月8日 20時