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『よいしょ』









今迄の資料、そしてソフィアが国木田さん宛だと言っていた、封に包まれた紙類を持っていく。

不安定になった資料を落とさない様に慎重に昇降機に乗った。

一階へ降りれば、国木田は資料室で先程持ってきたファイルを選別して、棚に差し込んでいる所であった。









『国木田さん』









「…ああ、済まないな」









「平気」と言って荷物を降ろし、資料の選別を手伝う。

その時、明るい資料室の中でも目立つ程の光を放った精霊が、入り込んできた。









《いってきた》

《おわったよ、けしてきた》

《はんにん、まふぃあのくろとかげっていってた》

《まふぃあって、あのこわいおとこのひととおなじだよね》

《こわいね、まふぃあ》









能天気な会話を交わし乍戻って来た微精霊達に礼をいい、情報を国木田に伝えた。









『…国木田さん。
あの爆発…マフィア、の、【黒蜥蜴】…だって』









「そうか」と前置きしてから国木田は「火は消したのか?」と問うて来た。

「うん」と答えると、「よくやった」と国木田は賞賛の声をかけてくれた。

少し照れて、頰の紅潮を隠すように精霊に手を伸ばす。

精霊たちはAの手に擦り寄る様に、溶けて消えて行った。









『………ね、国木田さん』









黙々と作業を進める国木田に声をかけた。

彼は「ん?」と振り返り、作業の手を止める。

振り返った時の表情が幼く見えて、少し笑いそうになってしまったのを、肩から落ちて来た髪を耳にかけ誤魔化す。









『先刻、は…ごめん、ね………?』









数秒の沈黙。

其れがAには辛かった。

どうも、あの侭では良い気がしないのだ。

謝れば少しでも気が楽になるだろうか、と思い声をかけてみた。

何とも言えない空気感で嫌で、Aが再び口を開こうとした時。









「____ああ、あの事か。
別に気にしてなどいない、心配は要らんぞ」









ケロッと答えてみせた国木田。

心が安堵の色で満たされた。

思わず心情が溢れ出てしまって、頬が自然と緩んでしまう。

「それよりもだな、今の会話で____」と、くどくどと己の【理想】を語り始める国木田。

またか、と思い乍微かに笑った。

「はいはい」と適当に相槌を打って手を進める。



彼の手帳には、少女を悲しませる、とは書いていない。




此れも、彼なりの優しさか、そう思い感謝の念を国木田に抱いた。

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作者名:鸞宮子 瑩 | 作成日時:2019年11月8日 20時

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