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『別に…私、は………』
《____私は、____よ》
脳に直接呼び掛けてくるように、甘く囁いてくる女性の声の不快感に、眉を寄せた。
その女性の声は何処か聞いたことがある声だった。
母の様で、自分の様で。
唯、自分にしては大人びていて、母にしては幼過ぎる。
中途半端な声。
其れを断ち切る様に首を一度大きく横に振り、震える喉で国木田に言った。
『私、の事、は…社長、が知ってる……
其れ、で…文句は、無い……でしょ?』
無理矢理喉を絞る様にして出した声は何時もより掠れていて、低かった。
その声は聞き方によっては怒っている様にも聞こえただろう。
気付いた時にはもう遅く、国木田の顔を見れば、彼は驚いた様な顔をしていた。
其れから、彼らしく無い、下手くそな笑みを浮かべて言った。
「そうか、其れは済まない。
………そうだな、社長が知っていれば問題はない」
「先輩に向かってその口は何だ」とか、「急に怒ることはないだろう」とか、色々とぐちぐち言ってくるかと思ったのだが、予想に反して何も言って来なかった。
申し訳無さそうな憎めない作り笑いを浮かべる国木田に、背を向けて、吐き捨てる様に言った。
『………そんな顔…貴方、がする必要…ない』
国木田は、怒っても、驚いてもいない。
____悲しんでいるのだ、Aに拒絶された事に。
良くも悪くも、回ってしまう頭でその答えにたどりついたAは、国木田に掛けるべき今最善の言葉を探した。
だが、自分の舌足らずが邪魔をして赤い唇から言葉を紡げない。
押し黙っていると、空気が重々しく感じ、居たたまれなくなった。
『資料……取っ、てくる』
そう言って国木田を振り返れば、いつも通りの表情になっていたので、少し、安心してしまったのは内緒だ。
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作者名:鸞宮子 瑩 | 作成日時:2019年11月8日 20時