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エルヴァは、美しく微笑み、Aに歩み寄る。
「覚えて居らんか?
昔、良く遊んであの馬鹿とも__ハルとも、食事をしたものじゃ」
____ハル。
何で、貴女がハルのことを知っているの?
知らない、貴女のことなんて知らない。
覚えてない。
なのに____
____なのに何で、私はこの人がいると安心するの?
まるで、自分では無い誰かがいるように、知らない記憶がある。
否、若しくは自分が忘れているだけなのか。
嗚呼、またなのか。
天花羽Aでは無い、《天花羽A》が出てくる。
違う、私は、《私》は。
「………覚えていないようじゃな。
これ以上深く追求してもいみもなかろう。
…早く、仲間の元へ行くのじゃ」
エルヴァが悲しそうに微笑む。
それを見て、無性に泣きたくなった。
だが、自分が壊れて行くようで、逃げるようにその場を立ち去った。
****
『………はぁっ、はぁ………
ごめん…お待たせ………』
走って出口に向かえば、太宰たちは矢張り外で待っていた。
箕浦と何か話していたようで、此方を全員で振り向く。
長い前髪が目にかかるのを退けながら、汗で首筋に張り付いた髪を風に揺らす。
「ああ、大丈夫さ、丁度話が終わったところだ」
太宰がひらひらと手を振りながら、「おいで」と手招きしてくる。
三人の元に駆け寄れば、乱歩が「ほら行くよー」と言って、先に行ってしまう。
敦が慌てて追いかけて行くのを眺めながら、太宰の顔を覗き見た。
『____太宰さん?』
警察署の上階を見ている太宰に声をかけて、目線の先を追うが、誰も居ない。
首をかしげると、太宰は「何でも無いよ」と言って歩き出してしまうので、敦と同じように慌てて追いかけた。
****
警察署の中で女性のヒールの音が響く。
女性は手に持った資料を見つめながら、ため息を吐いた。
「めんどくさい事をするものじゃな」
呆れたような声に微かな怒りを滲ませた女性の声。
女性の白く細い指が、ある文字を撫でる。
其処には、《天花羽A》の文字が。
女性は、紅の瞳を細め、資料を破いた。
「____これから忙しくなるのぅ」
ころころと喉を鳴らし笑いながら、手の中にある破かれた資料をぐしゃぐしゃに丸めた。
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革ベルト
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梶井基次郎
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作者名:鸞宮子 瑩 | 作成日時:2019年11月8日 20時