貴方がいなきゃ完成しない物語 ページ35
ただこちらの言葉を待ち続ける太宰。
急速に乾いた喉を必死に震わせ、言葉を紡ぐ。
『太宰さん、貴方は人を好きになるのは簡単だと言いましたよね。
俺は簡単じゃないと思う』
蓮はかつて太宰が言ってくれた言葉を思い出す。
あの時の太宰の顔が、まだ厳しかったことも覚えている。
『＿＿＿＿だけどね、太宰さん。
俺にも好きって、そう思える人が出来たんだ』
それが誰を指すのか。
鈍感ではない彼なら、誰の事かなんて、すぐにわかってくれるだろう。
「そうかい」
嬉しそうに笑う太宰。
そして、言葉を絞り出すようにはなった。
「私も、夢を見たんだ」
『………どんな夢ですか？』
そう問えば、太宰は儚く微笑む。
「＿＿＿＿＿君が、光の世界にいる夢さ」
『＿＿＿＿＿＿＿＿』
「不思議な事に、君の横に私がいたよ」
太宰の言葉に胸が締め付けられる。
思わず胸を抑え、一度顔を伏せた。
少しして、顔を上げる。
その目は、強い意思が宿っていて、彼女の本質が見て取れた。
『＿＿＿＿俺が帰ってきたら、伝えたい事がある』
「うん。
待ってるよ」
それだけ言い残し、寂しくならないように最後に太宰の姿を目に焼き付けてから歩き出す。
太宰が此方を見続けている。
．
私はきっと、光の世界よりも闇の世界の方が向いている。
だが、光の方が好きなのだ。
闇で生きるより、私にとって光の中で生きる方が辛くて苦しいかもしれない。
逃げ出したくなるかもしれない。
それでも構わない。
抗ってやろうじゃないか。
神様とやらが決めた《運命》に。
＿＿＿＿＿自分が望んで描いた物語が、本当の《運命》なんだって、言ってやれるように。
＿＿＿＿＿次太宰にあった時、胸を張って太宰に只今と言えるように。
今、動き始めるのだ。
壮絶で、誰も聞きたくない物語かもしれない。
でも最後には笑いあえる未来があって、幸せだと言えるような。
曲がっていて、真っ直ぐで。
憎悪も悲哀も恋情も愛情も。
全てが詰まった物語を。
＿＿＿＿＿《シシャ》の物語を、作っていこう。
．
『＿＿＿＿＿貴方がいなきゃ、俺の物語は完成しないんですからね』
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作者名：鸞宮子 瑩 | 作成日時：2019年11月24日 13時
