【文スト】人間不信の男装少女はマフィアに入って頑張るそうです。 (ページ32)

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蓮は芥川が付いてきた事を確認すると、突然振り返った。

『その怪我、治してあげようか？』

突然の申し出を予測出来なかった芥川は驚いたように言った。

「何だ、急に」

芥川の言葉に「別に」とだけ答え芥川の傷口に手をかざした。

一箇所だけしか傷は付いていないがそれは痛々しいものだった。

一緒にいなかったので、何処で傷ついたかは見ていないのだが。

『【名のないシシャ】』

ギリギリ傷付いてから三十分経っていないぐらいであったため、何とか治せた。

芥川がまじまじと自分の腕を見詰める。

不思議に思っているのだろうか。

そんな芥川がどんな顔をしているのか見ようと覗き込もうとすると、
ふと、芥川の頭上に何かが見えた。

『＿＿＿＿二？

否、九十二………？』

芥川の頭上には霞んだ黄金の輝く文字。

だが霞みすぎてはっきりと読めない其れは、
一番右端に会ったであろう数字がかろうじて読めた程度だった。

九、二、と並ぶ数字の左隣には、
まるで溶けて消えていっているかのような、不自然な形の数字しか見えない。

驚いて何度か長い睫毛を瞬かせると、その数字は小さな光を残し消えてしまった。

すぐに消えてしまった数字を不思議に思い乍、怪訝そうに此方を見る芥川に気付く。

ハッとして我に帰り再び歩みを始めた。

芥川が「どうした」と尋ねてくる。

『別に？

龍之介が変な顔してるなあって思ってさ』

「先刻の貴様は死んだ魚のような目をしていたぞ、藍兎」

『煩いよ、脳筋』

「其れは中原さんだろう」

『あ、今言っちゃったね。

いけないんだあ。

………一寸だけ俺もそう思った』

軽口を交わし乍歩き続ける。

蓮は芥川の事は気に入らないと思っている。

気に入らないと思っているにも関わらず、少し楽しいと思ってしまう自分が居た。