拾質 ページ19
『………幹部、補佐』
「おやおや、大出世じゃないかえ」
『太宰、幹部の……？』
「そうだよ、私の」
『下っ端じゃなくて？』
「間違いなく太宰の幹部補佐だな」
そんな会話を織り成す中心人物の手元には小さな紙があった。
その紙には《太宰 治幹部の幹部補佐》と記してあった。
先日の試験が終わり、その結果この役職になった。
まさかこんなことになるとは思っておらず、驚いている今日この頃。
尾崎によれば、「幹部になってもおかしくないレベル」だそうだ。
『………？
太宰幹部に補佐なんている？』
「ああ、幹部の中で最も補佐が必要なのは此奴だろうな」
『何で？』
「それは此奴が書類仕事をしないからじゃな」
「酷いなあ、私だって最低限はやっているよ」
「その最低限が酷い」と尾崎に言われ、「えぇー」と口を尖らせる太宰。
その内容があまり理解出来ずに首を傾げながら「成る程？」と頷いた。
そして、今一番に思っている疑問を尋ねた。
『幹部補佐って、何するんですか？』
「うーん………
特に他の人と変わらないかな」
「まあ、主に幹部の付き添いッてとこか？」
「ああ………
否＿＿＿＿君に付き添いをしてもらう気はないかな」
『え』
ヘラヘラと笑いながら言う太宰の顔を思わず見つめた。
感情の読めない太宰の鳶色の目と己の炎の様な赤の瞳とが交わる。
その瞬間、不快感に襲われて、思わず目を逸らした。
「ほら。
そういうところだよ。
結局は、平気にしてるけど弱くて駄目だ。
挙句には逃げているだろう。
そんなところが気に入らない」
「太宰………お主………」
「姐さん、私は中途半端な人材を側につけてもいいことなんてないと思ってる。
其れくらいなら必要ない。
強くなって貰わないとね」
『………つまり？』
「強くなったら、君を認めてあげよう」
口角を吊り上げる太宰の顔を思わず見つめてしまう。
その顔には、悪魔のような怖さと、美しさがあった。
太宰は自分を見つめて動かない蓮を見て何を思ったのか、目を細めて言った。
「別に、君には特別私の補佐となる事に思い入れも無い筈だ。
私の補佐となった所で君が得をするわけでもない」
『じゃあ、太宰幹部は何故そんな事を？』
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作者名：鸞宮子 瑩 | 作成日時：2019年9月19日 21時
