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「………………生きてる?僕」
倒置法で飛び出した言葉。心底生きていると思わなかった。いや、これから先のことを考えると今溺死してしまったほうがマシなのかもしれない。
どうやら奇跡的に小島に流れ着いたらしく、気がついたら湿った砂浜に頭を擦り付けていた。
「お、おきた…………ニンゲンが起きた!!」
「え?だれの声?」
ニンゲン、だなんてまるで自分が人間じゃないみたいな言い方。
しかしこんな無人島に限りなく近い島に人なんて居るのだろうか、と反射的に声がした方へと顔を向けてしまう。
「これがアシというものなのね……!!」
「………………えーっと、僕死んでたみたいだわ」
声がした方、というのも海で。女性になり切れていない、まだあどけなさの残る少女の声。
そこに居たのは、人魚だったのだ。
「まぁ!大切なニンゲンが死んでしまったら困るわ!」
「いや…………え?」
亜麻色の長い長い髪を海風に乗せて、幼さの残る笑顔で笑う少女。しかし、本来足のあるべき部位には鱗のついたターコイズブルーの尾鰭がパシパシと生きているかのようにのたうつ。否、生きているの間違いだ。
「僕、夢見てるのかなぁ……」
「夢なんかじゃないわ!私、A。貴方は?」
「……僕はbroooock。海賊だよ」
「ぶるーく、ね?ねぇぶるーく、私ニンゲンになりたくてニンゲンを探していたの!!」
陶器人形のように、美しく彼女が笑う。海でしか生き方を知らない僕には、見たことも無いほど美しい女性の姿だった。
まるで運命の出会いだとでも言うように、大袈裟に彼女が続ける。
「こんなところにニンゲンが来るなんて思わなかった!!ぶるーく、もし死ぬって言うのなら私の手伝いをしてくれない?」
「……いいね、それ。面白そう!!!」
この美しい人魚の為に、生きるのもアリかもしれない。
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作者名:りつ | 作成日時:2022年5月16日 18時