ねっちゅーしょう /kr ページ7
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「入るよ〜、A」
暑さも上々、まさに真夏というべき八月中旬。汗をかく毎日を送っていたのだが、ある一通の連絡により急遽俺は彼女の家へと向かうことになる。
「や゛ん……あり、がと…………」
「無理に声出さなくていいよ。体気持ち悪いでしょ」
熱中症になった。あまりにも簡潔なそのメッセージに少なくとも三度見はしつつも、撮影参加出来ない、と返事を待たずにワイテルズのグループチャットに送り、近くのスーパーでスポーツドリンクとゼリーを拵えてきた。
ひやり、と冷える濡れたタオルで汗だくの彼女の体をゆっくりと拭く。別にいやらしいことは考えていない。断じて。
「水分補給はしてるみたいだね。スポーツドリンク買ってきたけど飲める？」
ベッドサイドに置かれた2Ｌの天然水ペットボトルを眺めつつ、彼女の頷きを確認する。
かち、とキャップの留め具が外れた人工的な音が耳元を揺らす。
黄色のストライプが入ったストローを細い飲み口に差し込んで彼女の口元に近づけるとはむ、とそれを咥えた。なんだか餌付けしているように感じる。
「ん、よく飲めました。何か欲しいものとかある？」
「……や、ん」
冷蔵庫の中身を確認しようと席を離れつつそう聞くと、聞き逃してしまうほどか細い声で彼女が呟く。
出来る限り要望は尽くしていきたい限りだが、彼女からのオネダリとは。いくら熱に浮かされているとはいえ随分と珍しい。
「どうしたの？言ってごらん」
「ねっ、ちゅうしょ……」
「…………あぁ、そういうことね」
温くなった氷枕に手を付き、彼女の耳の裏を撫でる。
気持ちよさそうに目を細めているのを横目に、顔のラインに沿って手を添え、ゆっくりと頬に口付けを。
「たんとお眠り。俺の眠り姫」
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作者名：りつ | 作成日時：2022年5月16日 18時
