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「桐屋の一等上等な娘。ここの遊郭じゃ名の知れた花魁だよ」
「きり、や……」
「丁度練り歩きも終わったとこみたいだし……行ってみる？」
再び尋ねられた声に素直に頷くと軽く笑われた後に着いてきて、と続ける。
見慣れない景色がコマ送りの映像のように通り過ぎていくが、この花街の中でも随一大きな店が目の前に立ちはだかる。
「ここが花街最大級の店。確か花魁はここの子だったはずだし入ってみるか」
「……」
暖簾を掻き分け店の中に入るとここの花車であろう人物がにこやかに笑って男二人を出迎える。
「これはこれは幹部様、本日はどのようなご要件でしょうか？」
「ここのA花魁とお話がしたいとコイツが言いまして……。指定金額はこちらで支払いますので」
「まぁ！そうでしたらこちらへ。」
「んじゃ、用が済んだら先に帰ってて。」
「……了解」
ガチガチに緊張しつつも離れていくきりやんの背中をぼうっと眺める。声をかけられ、ふと意識を取り戻し、木製の廊下をゆっくりと進む。
「A、幹部のお客様がお見えだよ。顔をお出し」
「……どなたでありんすか？」
飴玉を転がしたような美しい声が、一つ幕の向こうから聞こえる。気付けば案内をしていた花車も居なくなり、花魁と二人っきりになる。
「白尾国総軍事司令官、シャークんです」
「聞いたことがありんす。主さん、お偉い方なんざんす？」
「……らしい、ですね。俺はただ暴れてるだけなんですけど」
「そういいなんすんな。それがうれしう人もござりんす」
「……！！あ、りがとう……ございます」
顔は見えない、けれど。こんな血にまみれた仕事を、世辞とは言えこう言ってくれるとは中々嬉しいものである。
花魁道中で見かけた、美しいその仕草と表情を脳裏に思い浮かべながら一人口角を上げる。
「わっちはこの店一の遊女、Aでありんす」
こんな気持ち、初めてかもしれない。
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作者名：りつ | 作成日時：2022年5月16日 18時
