五月雨 /sh ページ1
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「うぅ゛……なんて悲しいんだ……！！」
ずび、ずび。と啜り泣く声が二人しか居ない物静かなリビングに響く。
外は大雨で出かける予定を逢えなく潰されたところではあるが、事前に借りていた映画を見て暇をしのいでいるところだ。
「おまっ……泣きすぎじゃね？」
「だってぇ……こんなことって……！！」
ぐしゃ、と握りしめられたもちもちましゅまろクッションが無惨にも涙に濡れる。ちなみに商品名のままだ。
ソファに並んで見ているのは人気アイドルが出演していると話題の感動ものの作品。
なんでも生き別れた兄弟が様々な困難を乗り越えて出会う、という在り来りな趣旨の映画なのだがどうやら涙脆い彼女にはこれで充分だったようだ。
「はいはい。じゃあ次借りた映画観るか」
「待ってよしゃけ！！余韻ってものを知らないわけ？」
目を赤く腫らした彼女が異議申し立てる。こちらとしては浸る余韻すら無いのだが。
手に取りかけたアニマルものの映画を仕方なしに棚に置き直し、拗ねたように唇を尖らせる彼女の横に深く座る。
「何がお好みかな？お嬢さん」
「子供扱いしないでよ！私だってやれば出来るんだから」
緩んだ涙腺のおかげか少しばかり潤んだ瞳がこちらを見上げる。
きゅう、と喉の奥が締め付けるような感覚がしたが生憎返却期限が近い映画があるのだ。時には我慢も必要であろう。
「……へぇ？ま、やれるもんならやってみれば？」
「……しゃけのいじわる」
泣いたり怒ったり忙しい彼女にくく、と喉を鳴らしつつも両手を天井に向けるとギシリ、とソファのスプリングが軋む。
どうやら彼女は乗り気のようだ。
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作者名：りつ | 作成日時：2022年5月16日 18時
