sapphire 2

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3年生の実践的な妖精学の本を返しに図書室へ向かうと、グリフィンドールの女の子が隅の方で本を捲っていた。豊かな栗毛の彼女は、いつもあの席で必死にペンを動かしている。
彼女の名前は覚えていなかったが、図書室に通う中で顔は覚えていた。それに彼女はいつも魔法薬学で、あのスネイプ相手に質問や意見を真っ直ぐぶつけて減点されているので、Aの印象に残っていた。

彼女の脇を通り過ぎると肩が微かに揺れ、背中をおずおずと視線が見上げてくるのを感じ取った。栗毛の彼女は毎回Aのことを気にしている。分かっていたがそれを無視して、Aは離れた奥のテーブルに腰を下ろした。
新たに借りたのは妖精学の応用呪文が載った本と、魔法界の英雄伝の物語だ。3年生の魔法はまだあまり完璧には使えないが、いくつか良さそうなものを抜粋してノートに纏めていく。例えばフィニート・インカンターテムや、金縛り呪文──これなら未完成だが少しなら使える──や、イモビラスなどはとても魅力的な呪文に思えた。呪文や効果を覚えたら、実際に使って練習したい……Aは実践的な魔女だった。
学校では対象に出来る生き物はいないが、家に帰ればハウスエルフがいる。わくわくと胸を弾ませながらペンを動かしていると、栗毛の少女が動き出したのが目の端に映った。

普段ならそのままマダム・ピンスのところへ向かう彼女が、ゆっくりとAのいる方へ向かってきたような気がして、自分の視界を遮るようにAは本を立てて読み始めた。
彼女が近くまで来るのは初めてじゃない。
視界に映らないよう意識してページの文字を追うも、栗毛の少女が目の前に立ったのを見て、Aは観念した。

「何か？」

視線を僅かに上げ、すぐに本に視線を落とし、長い黒髪を白い手で耳にかけたAを見て、ハーマイオニーは言葉を躊躇った。もごもごと口の中で呟くようにして、Aの前の席に座る。
「あなたのこと最近よく見かけるわ」
「そう」
返事はつれないものだったが、近くに座るのを拒絶されなかったことや、無視されなかったことに安心してハーマイオニーは続けた。
「いつも高度な本を読んでる。今も」
何が言いたいのか分からず、Aは少し間を置いて、「そうね」とだけ口にした。