00 ページ1
レギュラスは、端正な顔を悲壮に歪めていた。
アナスタシアのホグワーツ卒業から会っていなかった彼は、少し見ないうちに酷く痩せたように思える。
ただでさえ白い顔をますます青白くさせ、彼は言った。
「婚約を解消しよう」
思いもしない言葉を投げかけられたアナスタシアは意味を呑み込めずに、呆けた顔で何度か瞬きを繰り返した後、その顔を絶望に染めた。
「どうしてなの、レギュラス…何かしたなら謝るわ…だから…だから…考え直して…」
唇を震わせて、今にも泣きそうに彼女は縋りつく。レギュラスは彼女を痛ましそうに眺め、ぎゅっと唇を噛んだ。
「アナ…きみが悪いんじゃない。僕が愚かだったんです…」
「それは…」
どういうこと、と続けようとしたアナスタシアの唇を彼の唇が塞ぐ。そして苦しそうに彼女を抱きしめた。
*
レギュラスは微睡みから目覚め、隣でぐっすりと寝ているアナスタシアをじっと見つめた。
彼女の銀の髪が、白い肩になめらかに垂れている。閉じた瞳に翳る睫毛を、形のいい鼻を、小さい口を、彼女のすべてを目に焼き付けるように眺めて、レギュラスはぐっと目を閉じた。
「アナスタシア…きみを愛してる。愛してるから、家族にはなれない。ブラック家と関わりを持ってはいけないんだ」
悲痛な声だった。
レギュラスは額、瞼、頬、唇に優しく口付けを落として囁いた。
「さよなら、僕の可愛い天使。どうか、幸せに」
彼は立ち上がり、名残り惜しそうに彼女を見やった後、そんな自分を断ち切るように背を向けた。
扉の音が響き、やがて静寂が訪れる。
アナスタシアはベッドの中で、ひとり肩を震わせた。
彼に行かないでと言いたかった。
*
学生時代の友人から最近ひっきりなしに手紙が届く。手紙の内容はいつも同じ。
死喰い人、レギュラス・ブラックが『例のあの人』に恐れをなして逃げ出し、そして…。
*
彼と婚約を解消してからひと月の時が流れ、妊娠が発覚した。
あのときだ。
アナスタシアは喜びに震え、涙をはらはらと流した。レギュラスは最後の夜のあと、姿を消した。まるで今まで存在しなかったかのように。彼のいた痕跡をレギュラスは残さなかった。
でも彼との愛の結晶が、自分にいま宿っている。それが嬉しかった。
同時に、彼の遺言が頭をよぎった。ブラック家と関わってはいけない。
アナスタシアはレギュラスと生まれてくる子どものために、自分を捨てる決意をした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 51人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
うたかた(プロフ) - 第一部隊さん» ありがとうございます。最近時間がなくてなかなか書けていませんが、脳内のスリザリン生活をゆっくりしたためたいと思います。 (2018年10月7日 12時) (
レス) id: 0c67ed22ac (このIDを非表示/違反報告)
第一部隊(プロフ) - 凄く心地の良い文章の書き方ですね。とても面白かったです。更新楽しみにしています。頑張ってください。 (2018年10月5日 20時) (レス) id: c19040a7d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：うたかた | 作成日時：2018年9月19日 13時
