思いはチョコレートに乗せて【バレンタイン短編集】 (ページ3)

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器用な女子×女子力高い男子ページ3

自分で言うのもなんだけど、私は器用な方だと思う。
　どちらかと言えば飲み込みは早い方だし、料理とか裁縫もクラスの女子たちよりは上手いと思う。

　私は、謂わば“女子力が高い人”だ。友達にも言われた。

　そんな私が好きになったのは、私の所属する料理研究部の部長、本澤(人2)先輩。高校2年生で、多分家庭的なタイプの男性だ。
　こう言うのもなんだが、ひょろひょろな先輩はモテる要素が殆どない。
　顔はそんなに悪くない(と思う)のにモテないのは、多分料理がうまいから。
　皆的には、自分より女子力高い男子とか嫌なのだろう。私はそんな風に思わないけど。寧ろ尊敬する。

　2月14日、全国の恋する女の子がソワソワする日。私のバッグには大量のチョコレート。…せがまれたんだ。クラス全員分作って！って。
「はーい。一人一個ねぇ」
　モテない男子が群がる群がる…。

　その混乱に乗じて、教室をそっと抜け出した。目指すのは、家庭科室。
　4階まで駆け上がり、左手の音楽室から聞こえる合唱を聞き流しながら。ゆっくり歩きながら心拍数を整える。

「あれ、谷木さん？」
　後ろからかけられた声に肩が揺れた。

「…本澤先輩…」

　まさかのご本人登場で下がったはずの心拍数が一気に上昇。もうダメだ。この羞恥には耐えられない…。
　すると、先輩の視線は私の左手に。

「！…チョコ、つくったんだ。流石料理研究部。って僕もか。」
　…え、と。
「アハハ…。部長が何言ってるんですか。」
「そうだね。えっと、ここにいたって事は、部員にでもあげる気だったのかな。」

　笑顔で爆弾投下してきた。
　未だ、音楽室からは合唱部の練習が聞こえてくる。

「…はい。お世話になりましたから、部長。」
　腹を括って左手をつき出す。手に持った紙袋の中には、必死の想いで作った生チョコが入っている。
　可愛くラッピングまでして。
　自分宛てだと知って、一瞬目を丸くしたが、ニッコリ微笑んで、ありがとう、と言った。
「いやぁ、義理でも嬉しいよ。一つも貰えなかったから慰めに自分で作ろうかくらいに思っていたから。」

　この人は、チョコを渡しても気づかないのか。大体、見た目がめちゃくちゃ本命っぽくないか？気づかないの？義理って思っちゃうの？
　正直びっくりした。ここまで私は意識されていないのか。

「…よかったです。喜んでもらえて。」