第76話 ページ36
消毒液のような匂いに体が包まれる。
その違和感に瞳を開けると、見慣れない天井が広がっていた。
「…ん?」
慣れないベッドの感触に、見慣れない天井。
その違和感に首を傾げながら体を起こそうとすると、『あ、目が覚めたかい?』と心地いい低音が耳をくすぐる。
「あ、寂雷さん…」
「うん、意識はまだはっきりしてるね」
『少し熱を計らせて?』と近付いてくる寂雷さんに、ここはシンジュク中央病院なんだと知る。
「えっと、熱を計るのはいいんですけど、私なんで…」
「おう、起きたか」
自分がどうしてここに居るのか分からず、寂雷さんに聞こうとすると、聞きなれた声がドアの開閉音と共に室内に入り込んでくる。
「左馬刻…」
私のお気に入りのブランケットを小脇に抱えた左馬刻は、ずんずんと近づいて来て左馬刻の私の額を合わせた。
「ん。あちぃな」
「あ、ソウデスカ…」
突然近くなった距離にたじろぐと、楽しそうな微笑が零れる音がする。
「ふふっ、私が確認する必要はなくなったね」
「寂雷さん…!」
『本当に君たちは興味深いね』なんて言いながら、寂雷さんはイスに座る。
「熱があるなら、風邪の初期症状かな」
「か、風邪?」
「うん。左馬刻くんが気付いて連れてきてくれたんだ」
冷静にそう言う寂雷さんから視線を外すと、左馬刻が口を開いた。
「メシの味が濃くなってた」
「まじか…。舌バカになってたかな?」
首を傾げながらそう言うと、左馬刻が私の肩にブランケットを掛ける。
「だろうな。先生、薬は?」
「うん。熱があるみたいだから、解熱剤と咳止めを出しておくよ」
『お大事にね』なんて言いながら、寂雷さんは聖母のような笑顔を零す。
「あ、ありがとうございます…」
「世話掛けました。帰ンぞ」
「あ、うん」
再度寂雷さんに頭を下げると小さく手を振られた。
名残惜しむように病室を出ると、左馬刻に手を引かれる。
「めまいは?」
「ない、けど」
そう答えると、左馬刻は駐車場に停めていた車の後部座席のドアを開ける。
「イス倒して寝とけ」
「…うん」
その優しさに甘えながら車に乗り込むと、いつもより控えめのスピードで車が走り出す。
「…熱い」
風邪の熱なのか、恥ずかしさからの熱なのか。
よく分からないそれに溺れながら、重くなってきた瞼を下ろした。
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トーマ - ついに完結してしまった…これからも幸せでいてほしいですね〜もう一回全部読んできます、神作品をありがとうございました!!煉くんかわ…かっこいい、女の子の扱い方うまそう… 次の作品もたのしみにしてます! (2019年1月26日 9時) (レス) id: 886f42f433 (このIDを非表示/違反報告)
カコ - 完結と同時にコメントしたかった・・・こんな幸せな作品をありがとうございました。他にもいろいろ言いたいことはあるけど、とても言い尽せそうにありません。なので、もう一度言わせてください。ありがとうございました。 (2019年1月25日 0時) (レス) id: 7a3bf8ffac (このIDを非表示/違反報告)
うすしおタルト(プロフ) - 花蓮さん» ありがとうございます!!よかったです〜!たくさん読み返して頂けて幸せです!! (2019年1月22日 20時) (レス) id: 9f30b37ea7 (このIDを非表示/違反報告)
うすしおタルト(プロフ) - 麗華さん» ありがとうございます!!想像の斜め上行けましたかっ!?楽しんで頂けたのなら幸いです!! (2019年1月22日 20時) (レス) id: 9f30b37ea7 (このIDを非表示/違反報告)
うすしおタルト(プロフ) - 魔王さん» ありがとうございます!!素敵だなんてそんな…っ!たくさん読み返して頂けたら幸いです!! (2019年1月22日 20時) (レス) id: 9f30b37ea7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うすしおタルト | 作成日時:2018年11月28日 19時