第54話(しらすの丼子さんリク) ページ14
それからの日々は、想像していたものよりはずっと優しくて、腰が抜けてしまいそうだった。
『じじい!俺は金のためならなんでもやるっつった!』
と左馬刻が言えば、おじいさんは床掃除やら盆栽の手入れを頼んだ。
『わ、わたしもおてつだいする…』
と言えば、優しく料理を教えてくれた。
それは普通の家族となんら変わりなくて、思わず二人で顔を見合わせた。
それでも左馬刻は中学校に上がると、痺れを切らしたようにおじいさんに内緒で裏の仕事をするようになった。
急にふらっと居なくなっては、夜中まで帰ってこない。
かと思えば、他の組から左馬刻の目撃情報が日夜届く。
傷を負わせて帰ってくることがあれば、傷を負って帰ってくる。
不安だった。
いつか左馬刻が雪のように消えてしまいそうで、それと同時に私には止めることが出来なさそうで、酷く酷く不安だった。
そうなってしまうことが、すごく嫌だった。
左馬刻の帰りを待って居間で寝落ちをすれば、朝には私の体はベッドに寝かされている。
その時ほのかに香る血の匂いに『行かないで』と何度も縋って泣いていた。
たまに帰ってきたと思えば『メシ』とそれだけ言って疲れたように眠ってしまう。
それでも私がご飯を作ると残さず食べてくれる。
それでもまた姿を消す。
そして血の匂いを引き連れて帰ってくる。
そんな生活が何年か続いたある日。
私が中学校に上がってしばらくした頃、隣のクラスの男の子から告白された。
鈴木くんだったか佐藤くんだったかは覚えてないけど、
『初めて見た時からずっと気になってました…っ。お、俺と付き合ってください…!』
と、耳まで真っ赤にして告白されたことは覚えている。
異性からの告白なんて生まれて初めてで驚いたけれど、心臓はそんなにうるさくはなかった。
ひとまず、
『返事、明日でもいいかな?』
とだけ伝えると、頭が取れそうなほど首を振って頷いていた。
一体どう答えるのが正解なのか分からず、素直な気持ちを伝えようと次の日学校に行くと、
その子は居なかった。
第55話(しらすの丼子さんリク)→←第53話(しらすの丼子さんリク)
1485人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ヒプノシスマイク」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
トーマ - ついに完結してしまった…これからも幸せでいてほしいですね〜もう一回全部読んできます、神作品をありがとうございました!!煉くんかわ…かっこいい、女の子の扱い方うまそう… 次の作品もたのしみにしてます! (2019年1月26日 9時) (レス) id: 886f42f433 (このIDを非表示/違反報告)
カコ - 完結と同時にコメントしたかった・・・こんな幸せな作品をありがとうございました。他にもいろいろ言いたいことはあるけど、とても言い尽せそうにありません。なので、もう一度言わせてください。ありがとうございました。 (2019年1月25日 0時) (レス) id: 7a3bf8ffac (このIDを非表示/違反報告)
うすしおタルト(プロフ) - 花蓮さん» ありがとうございます!!よかったです〜!たくさん読み返して頂けて幸せです!! (2019年1月22日 20時) (レス) id: 9f30b37ea7 (このIDを非表示/違反報告)
うすしおタルト(プロフ) - 麗華さん» ありがとうございます!!想像の斜め上行けましたかっ!?楽しんで頂けたのなら幸いです!! (2019年1月22日 20時) (レス) id: 9f30b37ea7 (このIDを非表示/違反報告)
うすしおタルト(プロフ) - 魔王さん» ありがとうございます!!素敵だなんてそんな…っ!たくさん読み返して頂けたら幸いです!! (2019年1月22日 20時) (レス) id: 9f30b37ea7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:うすしおタルト | 作成日時:2018年11月28日 19時