狙われちゃんと不死川さん 《不死川実弥》

＊あの言葉は。 ページ5

―――逃げられない―――


ハッと目が覚める。体は汗で濡れていた。服も汗で張り付いている。


やけに大きく低いあの声が、脳内で響いていた。


―――――――――――――――――


私は走っていた。あの場所から一番遠く、見つけられにくい居場所へ向かって。


後ろからは行灯を持って追って来る数人の男たち。


ありとあらゆる罵声を私に飛ばして、頭を混乱させる。
何回も何回も聞いたあの声。浴びせられる数々の悪口、嫌味。もはや聞きなれた暴言。


全て、私を苦しませるもの。


私は目に涙を浮かべながら、必死に死に物狂いで走っていた。
こんな場所、抜け出してやる…！そんな信念ばかり抱えて、上手く動かない足を鬱陶しく感じつつ


やがて野を超え山を越え、朝まで追いかけっこは続いていた。
子供の体力には劣るのだろう、男たちはふと足を止めた。だが、諦めはしていなかった。


「逃げられると思うなよ！お前は逃げられねえ！すぐに迎えに行ってやるよ、ハッ」


―――逃げられない―――


いくら逃げても、捕まる。そういう意味だった。たった今、その出来事を思い出した


―――――――――――――――――


ならば私は。此処に居ては、駄目だ。


此処に居れば、やがて見つかって…実弥やしのぶさん、カナヲにアオイにも迷惑が掛かってしまう
私が居ることで、みんなが危険に侵されてしまう。


私もろとも捕まってしまうことだってあり得る。


「馬鹿だなぁ…」


私は自分にそう言った。つくづく嫌になる。考えたらずな所、抜けているところ…。


私は、この街に来て出合った人が好きだった。


実弥は命の恩人。外面悪いし、実際ちょっと曲がってるけど、これまでにないほど優しい人。
話しかければ応えてくれる、その傷だって人のためについたものなんでしょう。
人を自分から遠ざけているのも、その人を想って。
分かってるよ、実弥。ねえ、実弥。


…気付きたく、なかったなぁ……好きになっちゃったよ、もう…


離れたくないよ、ずっとそばで笑ってたいよ。
願わくば平穏な毎日を一緒に、過ごして行きたかった。
二人で嫌なこと乗り越えて、仲良く……っ


でも、私が居たら迷惑なだけだから。一緒に歩む道はないという運命だから。
実弥は私のことをどう思っていたかな。



三日以内で、私は違う街に出て行くよ

＊何にもないよ。→←＊ちょいと作者から。

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