狙われちゃんと不死川さん 《不死川実弥》

＊笑顔が。 ページ28

苦い顔をして笑う男の人。
傷がいっぱいで身長が高い。少し年上の人だと分かった。


何でそんなに寂しそうな顔をするのか


何故か分からないけれど、この人には笑ってほしいと思う自分がいた。


彼が曖昧な表情を浮かべる度胸がキリキリ痛むから。
私は服の上から胸を抑え、その人の手を握る。


「笑ってよ、実弥」


今教えてもらった名前を口にし、私は実弥に向かって微笑んだ。


自分が笑顔になったら実弥も＿＿笑ってくれると思ったから


単純な考えだ。それでも実弥は優しげに目を細め、私の手を握り返す。
見た目からは想像できない、とても…優しい笑み


耳が熱くなってく。
私から言ったくせして、自分が照れてる


「いきなり呼び捨てかよ。…まァ、テメェらしくて良いけどォ」


ぽんと私の頭を撫でてよっこらしょと立ち上がった。


胸の鼓動が早まっていくと共に、頭に鋭い痛みが走る。
もう何回も体験したけど、今までとはなにか違う


ぐらぐらと足元も揺れるみたいだ。


何度も頭を掻き混ぜられ、揺さぶられているかのような酷い…苦痛


私は頭に手を当て、立っていられなくなり少し屈む。
実弥は息を荒くする私の顔を覗き込む。


「おい、A。大丈夫かァっ…！」


駄目だ、大事(おおごと)にはしたくない。


だって今楽しいから。この雰囲気を壊したくないから
実弥と一緒に…折角居られるのに、私が崩してしまったら＿＿＿。


私は痛みをさらに増していく頭から手を離し、何とか口角を上げる。


実弥と一緒に居られなくなるくらいなら、我慢するほうが…何倍も良い


私は心配する実弥を少し押して、笑みを漏らす。
笑えているかは不安だけど


「…大、丈夫。ほら、…遊ぼ」


自分なりに笑ったつもりだったのに、実弥は眉をひそめて私を見ていた。


目に膜が張られていく


目の前が涙でぼやけた。
私は気合を入れるように唇を噛みしめる。


そうすれば涙も少しは引っ込んでくれた。
私は、大丈夫。至って元気


自分でもそう思いたいくらいだった。

＊願いは。→←＊夢で。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す