狙われちゃんと不死川さん 《不死川実弥》

＊あの場所で。 ページ25

川の流れる、清らかな音が耳を癒やしてくれる。
普通はどうしようもない緊張と不安に駆られるのだろうけど、今は違った。


何故か私は、これほどまでになく冷静だった。


桜の木にもたれ掛かって夜空を見つめていると、後ろから「ざっ」と砂利を踏む音がした。


少し荒い息使いも聞こえてくる。


恐らく、いや間違いなく実弥だった。
私の記憶が正しければ昔、私が想いを寄せていた人と同一人物なのだ。


実弥、と言うその人は。


物騒な顔して優しいところも、少しだけ思い出せた。
でもきっと明日になったら忘れてしまうだろう


私と同じように木にもたれ掛かった実弥。


気配を感じ取り、私はすぅーっと息を吸い込む。
今しか想いは伝えられない、思い出せないから


忘れる前に1個も後悔が残らないために…………


「実弥、あのさ」「……おォ、何だァ」


木を挟んで向こう側に居る実弥に、静かに切り出した。
話したいことはいくらでもあるけれど、どうしても今、伝えたい


前は事情があって打ち明けられなかった、切ない恋を


この封じ込めて出て来なかった、淡い気持ちを。


「見つかったら、終わりの人生だった」


蛍の明るい光が周りを照らす。
しんとした夜に、ぴったりな色


人生に光を見失っていた私。見つかって捕らえられたら、終わり
消え掛けた…いや既に一度消えていた、私の感情を


こうしてもう一度、灯してくれた


「怪我して倒れた時……助けて、くれたよね」
「ッ………、そうだなァ……！」


嬉しいはずなのに。思い出せたはずなのに。


あれ、何で
ねぇ、どうして


私は
　 涙を流してるんだ
俺は


「誰もッ…周りに、居なかった…！頼れる人が、もう……居なかった」


嗚咽を堪えながら必死に言葉を紡ぐ。
口は止めるな、止めてしまったらもう…忘れる


「血も、涙もっ…止まらな、かった」「あァ…」


雲に包まれた月が


すーっと姿を現してくるように


「でもっ…！私、と関わってしまったら、ッ……」


実弥が、ふっも嘆くみたいに小さく呟く。


「んなこた…分かってたァ、んでも、俺はァ……！」
「それでも、私は…！やっぱり………ねぇ」


ボロボロと感情が溢れ出す。
抑えてた気持ち全部、全部全部漏れ出して来る。


我慢してた気持ち、言えなかった言葉


関わってしまったら不幸になることも、悪い結果を招くことも
全て分かっていたんだ。


だけど。それでもね、実弥。




「……っ諦め、られなかったんだよ……」

＊全てを。→←＊想いが。

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