不死川先生は余裕がない【鬼滅の刃】

21−辛いから ページ22

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落ち着きのある、艶気のある低い声が私の名前を呼んだ。
涙を拭いきらないままに顔をあげる。


太陽に反射して若干逆光だったけれどそこには確かに顔なじみの宇髄先生が立っていた。

宇髄先生は私の顔を見るなりぎょっとしてしゃがみ込んでパーカーの裾でごしごしと拭ってくれた。





「宇髄…先生」

「どうした？何か悩み事か？」

「……絵具…臭いです……」

「…………」





先生の手が止まる。見ると何とも形容し難い表情をしていて少し申し訳ない気持ちになる。

盛大なため息をついた後、先生は私の隣にどかっと腰掛けその長い脚を悠々と組んで「で？」と此方を見遣った。





「誰に泣かされた？不死川か？」

「………」

「やっぱりな」

「やっぱりって…記憶、あるんですか？」

「記憶？…お前、覚えてんのか？」





宇髄先生が前のめりになって私の顔をまじまじと見る。
ただでさえ顔がいいのに近づかれたら心臓がもたない。

「ち、近いです…」となけなしの抵抗を見せれば案外すんなりとその顔は遠ざけられた。





「お前何で今まで黙ってたんだよ」

「だ、だって言っても信じて貰えないし…炭治郎は覚えて無かったから記憶があるのは珍しい事だと思って言えないに決まってるじゃないですか…！」

「いや、まぁ…そーだけどよ」





宇髄先生が何か言いたそうに口籠る。首を傾げれば「こっちの話だ」と話題を避けられた。





「そんで、不死川に泣かされたんだろ？」

「……私、実弥の前だと……素直になれないんです」

「あー？昔は滅茶苦茶くっついてたじゃねェか
口を開けば実弥とおはぎしか出なかったくせによ」

「ち、ちが…！……ハイ、そうなんですけど」





実弥程、私を大切にしてくれる人は居なかった。
それほど彼は私の大切な一部だった。

ぽつぽつと呟く私の話を、宇髄先生はちゃんと耳を傾けてくれる。





「時代は違うのに…何か懐かしい気がします」

「懐かしい？」

「……実弥は柱で…私はただの隊士だった。
私みたいな人間を、実弥は愛してくれた。
＿今世は違うけど…歳の差があって、私はただの生徒で実弥は皆の先生です。
一つ違うのは……今世は好きなのは私だけって事」

「……お前」





隣で聞こえた声は微量に驚愕と焦燥を含んだものだった。語尾が若干上ずった。


私は誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
これ程までに実弥が大好きだって事を。





「私もう実弥の事忘れます」





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