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景山さんを殺した犯人が捕まってないなら、確かに事件は終わってない。
「でも先生がここまでする必要があるんですか?」
事件解決なら、警察に任せればいい。
わざわざ先生が犯罪者になる理由なんてない。
「警察では加害者を特定できない。
だから世間を使って炙り出す必要がある。
立てこもったのはそのためだ。
大勢の人間に興味を持ってもらうことが目的だった」
そこまでしないと特定できない加害者。
それは、一体どんな人なんだろう。
「そして生徒達に、何が大切で何を守らなければならないのか、景山の事件を通して、学んでもらおうと思った」
蒼井、と先生は私を呼んだ。
「お前も大切な生徒だ。担任を受け持ってはいなかったけど、長い間教えてきた。
だから、俺の最後の授業に参加して欲しかった」
「…はい」
はい、とだけ答えた。
それしか、言う言葉が見つからなかった。
「それにしても」
先生はどこか遠い目をして言った。
「蒼井があんな風に怒るなんで驚いたよ」
「…あ」
そうだった。
ついカッとなって、先生の前で里見君に怒鳴ってしまった。
なんだかいたたまれない気分になって、先生から目を逸らす。
でも先生は呆れてるというよりは何やら感心した様子で「あの蒼井がなぁ」と呟いていた。
「…そんなにびっくりしましたか?」
「そりゃまあな。最初に会った時からは考えられなかったからなぁ」
感情が死んでいた、昔の私。
あの頃の私が、誰かの言葉で気持ちが揺れて、怒って、怒鳴るなんて、確かに想像もつかなかった。
雛が空を飛ぶことを覚えた時の親鳥みたいに、先生は嬉しそうだ。
なんだか子供扱いされているようで、ちょっとむっとする。
先生は呟くように言った。
「蒼井は真っ直ぐだな」
「…単純ってことですか?」
不満げな私に先生は「そうじゃなくて」と笑った。
「真っ直ぐな分、人の心を動かすのが上手いなと思って」
「そう、ですか」
思いがけない褒め言葉に不意を突かれて、私は曖昧な返事しかできなかった。
「蒼井の言ったことは、ちゃんと里見に届いたよ、きっと」
先生は目を細めて笑った。
久しぶりに見た、狂気の混じってない笑顔だった。
私の知ってる先生が完全に帰ってきてくれた気がして、胸がきゅう、となった。
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さな×りお(プロフ) - 緑えいたぁーさん» えぇ…ありがとうございます! めっちゃ嬉しいです更新頑張ります! (2019年5月3日 20時) (レス) id: e17c1230c5 (このIDを非表示/違反報告)
緑えいたぁー(プロフ) - さなさんとりおさんの書くお話が大好きです!いつも楽しみにしています!もしかしたら歳近いんじゃないかな〜って思ったりしたりしなかったり…御二人のファンとしてずっーと応援してます! (2019年5月2日 22時) (レス) id: 847f0c09f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな×りお | 作成日時:2019年4月24日 22時