4-14 ページ14
「大丈夫か」
先生が心配そうに私の顔を覗き込む。
「兄がいたんです」
言ってから、返答になっていないなと気づいた。
それでも言葉は止まらなかった。
「私が中学生の時に死んだんです、癌で」
先生が息を呑む気配があった。
無意識のうちに、記憶に蓋をしていた。
優しくて、大好きなお兄ちゃんだった。
お兄ちゃんを殺した癌は、先生のことをも蝕もうとしている。
「どうして先生まで…嫌だ。
大切な人がいなくなるのは、もう嫌だ」
情けない、子供のわがままじみた言葉が、フローリングの床を滑っていった。
蹲る私を、先生はとても辛そうな顔で見つめた。
そして重い口を開いた。
「蒼井、一旦ベットで休んでなさい」
「でも下校時刻とっくに過ぎて」
「いいから、ほら」
先生は手を差し出してきた。
その手に捕まって立ち上がった瞬間、目眩がした。
よろけて、先生に抱きつく格好になってしまう。
「す、すみません」
慌てて身体を離そうとすると、
ぐ、と逆に抱き寄せられる。
「先生…?」
不思議に思って先生を見上げた。
至近距離で目が合う。
先生はくしゃりと顔を歪ませた。
眉根を寄せ、眼鏡の奥の瞳が辛そうに震える。
病気の痛みでというより、先生の中の想いが表情に滲み出ているようだった。
「先生?」
もう1度呼ぶと、先生はハッとしたように目を見開き、ふいと顔を背けた。
「…まだ1人で歩けないでしょ」
そう言って、私に肩を貸す。
半ば運ばれるように、さっきまで先生が寝ていたベットに入った。
170人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さな×りお(プロフ) - 緑えいたぁーさん» えぇ…ありがとうございます! めっちゃ嬉しいです更新頑張ります! (2019年5月3日 20時) (レス) id: e17c1230c5 (このIDを非表示/違反報告)
緑えいたぁー(プロフ) - さなさんとりおさんの書くお話が大好きです!いつも楽しみにしています!もしかしたら歳近いんじゃないかな〜って思ったりしたりしなかったり…御二人のファンとしてずっーと応援してます! (2019年5月2日 22時) (レス) id: 847f0c09f1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さな×りお | 作成日時:2019年4月24日 22時